国連憲章以前に自然権ですでに確立

詳解 集団的自衛権 安保法制案の合憲性(2)

日本大学名誉教授 小林宏晨

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 筆者が集団的自衛権と取り組んだ時期は、防衛研修所(現防衛研究所)の西岡朗氏を座長とする自衛権に関する1983年の「共同研究」においてであった。その成果が87年発刊の『自衛権再考』(知識社)であった。なおこの著書は、横田喜三郎氏(国際法学者、第3代最高裁長官)の評価・推薦を得て「吉田茂賞」を頂いた。筆者は、その「共同研究」で日本が集団的自衛権を国際法的に有しているのみならず、憲法的にも適用できると結論づけた。

 前共同研究からおよそ30年を経て、ようやく集団的自衛権の適用問題が政治の日程に上り、限定的であれ、日本が国際法上この権利を有するのみならず、憲法上もこの権利を適用できるとする閣議決定にまでも到達した。このテーマは将来に向けても理論的裏付けが不可欠である。本稿は従って、再度このテーマを検討対象としたい。

 個別的・集団的自衛権についての検討以前に、国連の2つの原則について言及しなければならない。それは、諸国家間の「紛争の平和的解決義務」と「一般的武力禁止義務」である。

 武力の一般的禁止義務及びその例外については、国連加盟諸国は、国連憲章第2条第4項により、その国際関係において、武力による威嚇、又は武力行使をいかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他の如何なる方法によるものも、慎まなければならない。この条項は、日本国憲法第9条第1項に類似する。ところが武力の一般的禁止義務の例外として許容される武力行使は、一般国際法及び国連憲章第51条に基づく。

 国連憲章第51条は以下のように規定する。

 「この憲章のいかなる規定も、国連加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置を採るまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当たって加盟国が執った措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復の為に必要と認める行動をいつでも採るこの憲章に基づく権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。」

 前記国連憲章第51条規定の特徴について若干説明する必要がある。

 その第1は、国連加盟国の個別的及び集団的自衛権が「固有の権利」(英文)もしくは「自然権」(仏文)と記述されている事実である。

 その意味するところは、全ての国連加盟諸国もしくは(国連加盟国でない)(例えば、スイス、ヴァチカン市国、台湾)全ての主権国家は、適用可能な個別的・集団的正当防衛の自然権を有している事実である。

 その第2は、個別的・集団的自衛権が国連憲章第51条規定で初めて創設されたのではなく、既にそれ以前に一般国際法によって確立している事実である。

 つまり国連憲章第51条は、一般国際法によってすでに確立している権利を確認しているに過ぎない。そうでなければ、例えばスイスは、この権利を持たず、武力攻撃の対象となった場合でも、他国に支援を求めることさえできないことになる。台湾も同様の立場に置かれることになる。