安保法制は妥当な「憲法の変遷」

詳解 集団的自衛権 安保法制案の合憲性(1)

日本大学名誉教授 小林宏晨

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 安倍晋三政権の平和安全法制案の審議が佳境に入っている。しかし、限定的とはいえ集団的自衛権の容認を盛り込んだ同法案は、戦後安保政策の大転換ともいえるだけに、その未経験さゆえか与野党ともにその審議内容に稚拙な印象が免れない。世論調査でも国民の多くが「分かりにくい」と答えている。そこで集団的自衛権をめぐり、小林宏晨・日本大学名誉教授(憲法)に歴史的に体系立てて解説してもらった。

 今回の安倍政権が進める安保法制は、戦後最大の憲法変革といえる。筆者の観点からして、保守政権がこれまでもたらした戦後最大の憲法の変革は、およそ二つある。その第1は、1950年の朝鮮戦争時における警察予備隊の創設であり、その第2が、今回の集団的自衛権の限定的適用を可能にする安保法制の制定である。

 ただし、第1の「警察予備隊の設置」は未だ占領下であったので、占領軍の勧告(命令)で行われた。警察予備隊は、対日講和条約発効直後に「保安隊」となり、1954年には「自衛隊」となり、現在に至る。前記の「自衛力」の法的基盤となる一連の法令(警察予備隊令、保安隊法、自衛隊法)は、政府及び議会の多数が、これらの法令の憲法適合性を前提として制定したものである。つまり官僚の支援(準備)下に法案が作成され、政府が議会に提出し、議会の多数をもって議決された有権解釈グループの法令は、最高裁が違憲であると判定しない限り、自衛隊の合憲の推定が支配している。

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参院平和安全法制特別委員会で質問を聞く安倍晋三首相(左)。右は中谷元防衛相=4日、国会内

 第2の集団的自衛権の限定的適用を可能にする安保法制の制定は、日本が独立後の主権国家として自発的にその制定を試みた点において画期的とみなされる。しかもこれらの法制によって、日本が世界における普通の国家にある程度接近する機会が示され、周辺諸国に対する抑止力が顕示されることとなる。

 既に指摘したように、両者は憲法の変遷論を適用している点で共通している。憲法の変遷とは、憲法の条文を変えることなしにその解釈内容を根本的に変えることである。欧米を含めて、全ての現代憲法は、憲法の変遷の適用を伴ってこれまで運用されてきている。

 参考までに、憲法の変革には三つの方法が知られている。その第1は、憲法に規定されている方法によって条文を改正・補足・廃止することであり、立憲国家では通常行われている方式である。

 その第2は、クーデターあるいは革命によって憲法を廃止し、新たな憲法を制定することであり、変則的ではあるが、その数は少なくない。

 第3は、憲法条文を変えずに解釈内容を変更する憲法の変遷である。この方式は、立憲国家において通常に行われている方式である。最近、わが国で野党が盛んに主張しているような「法の安定性」を危険にさらすような方式ではなく、立憲国家の存続に密接に組み込まれている方式である。

 憲法の変遷は、むしろ憲法改正を先取りし、次にクーデターや革命を事前に阻止する機能を兼ね備えている点において、憲法改正と同様の重要な機能を有している。

 以上の前提的説明を伴って、次回から本論に入りたい。

 こばやし ひろあき 1937年生まれ。秋田県出身。ヴュルツブルク大学で法学博士号取得。専攻はドイツ基本法(憲法)及び国際法、比較憲法、EU法。上智大学外国語学部教授、日本大学法学部教授を経て現在日大名誉教授。2007年から4年間、秋田県の上小阿仁村村長も務めた。