クリミア併合1年、撤回に向け対露圧力強化を


  ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ南部クリミア半島の併合を決定してから1年が経過した。

 併合は「力を背景とした現状変更」であり、決して容認することはできない。国際社会はロシアへの圧力を強め、併合を撤回させる必要がある。

 プーチン氏「核使用」発言

 プーチン大統領は当時、クリミアの「住民投票」で示された「民意」を理由に併合を正当化した。

 ところが国営テレビが放映した特別番組「クリミア、祖国への道」のインタビューでは、昨年2月のウクライナ政変翌日に閣僚らに「併合に向けた作戦を開始しなければならない」と命じたと回想している。

 これで住民投票前から併合ありきだったことが明白になった。ロシアは同月末、国民に「秘密裏」にクリミアに軍事介入し、記章のないロシア部隊が庁舎や空港を制圧した。

 また併合の際に、核兵器使用の準備をするようロシア軍に指示したことを明らかにした。さらに「クリミアは歴史的に我々の領土であり、ロシア人がそこに住んでいる。彼らは危険な状況に置かれた。我々は彼らを見捨てることはできなかった」と付け加え、当時そうした立場を諸外国の首脳に伝えていたことも明らかにした。

 昨年改正のロシア軍事ドクトリンには「ロシアは自国や同盟諸国に対する核兵器使用や大量破壊兵器使用に対抗して、また、通常兵器を使用した侵略によってロシアの国家的存在が極めて危険にさらされた場合にも、核兵器を使用する権限を有する」と記述されている。だがクリミア併合の際に、ロシアがこのような危機に陥っていたとは思えない。

 ロシア軍は抑止力の観点から建前上、クリミア危機にかかわらず核戦力を常に臨戦態勢に置いている。だからと言って、みだりに「核使用」に言及するのは不穏当だ。

 この発言には、クリミア併合の意義を国民にアピールするとともに、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を牽制(けんせい)する狙いがあろう。併合を既成事実化することは許されない。

 この1年、ロシアはウクライナへの影響力維持のため、同国東部の親露派を支援するなど強硬姿勢を貫いてきた。親露派とウクライナ政府軍との戦闘では、先月の停戦発効までに5000人以上の死者が出ている。

 ウクライナ危機を受け、日本や欧米諸国が制裁を発動したことなどでロシア経済は低迷している。もっともロシアのメディアは愛国主義のプロパガンダ一色に染まっており、プーチン大統領の支持率はこの1年、8割以上をキープしている。

 だが制裁の影響が国民生活に広がれば、不満の矛先がプーチン政権に向く可能性は否定できない。

 秩序乱す動きを許すな

 日本はロシアとの間に北方領土問題を抱え、交渉進展のためにプーチン大統領の年内訪日実現を目指している。

 北方領土もまた「力による現状変更」によってロシアに不法占拠されている。国際秩序を乱す動きを許してはならない。

(3月19日付社説)