ウクライナ政策 米国の陰謀説から決別を

2015 世界はどう動く 識者に聞く(18)

ロシア科学アカデミー主任研究員 アレクサンドル・ツィプコ氏 (下)

300 ――そうであるならば、ロシアは思想的に正しい道を進んでいるとの希望がある。

 ロシアはウクライナ領土の一体性を認め、ウクライナ東部での戦闘を終結させるため、なんらかの政治的妥協を見つけ出そうとしている。少なくとも、ウクライナ東部の親露独立派による「ノヴォロシア」のロシアへの編入や、新たな沿ドニエストル共和国とするとの考えはない。

 しかし、経済的な観点では、状況は極めて悪化している。人々は自らの生活水準の低下を、クリミア併合や対ウクライナ政策と結びつけることができていない。これはすべて、ロシア人の認識の特殊性だ。国民の実質所得はこの3カ月間に少なくとも30%低下し、さらに悪化しようとしている。投資は行われず、原油価格は下落した。米国がロシアに対する制裁を緩めることはなく、ロシアはさらに困難な状況に陥るだろう。これはすべて、ロシアが自らの過ちを認めようとしないためにもたらされたことだ。

 ――それは、ロシア国民が、自らの生活水準の低下をプーチン大統領や対ウクライナ政策に起因していると考えているのではなく、すべての原因は外国の敵、簡単に言えばアメリカの陰謀だと考えているということか。

 そうだ。しかし、ここに至ってやっと、少しずつではあるが、ロシアの一般庶民の間でも、プーチン大統領とロシアの対外政策―対ウクライナ政策が、ロシアの経済困難をもたらしたとの認識が広がりつつある。

 生活水準の大幅な低下に直面した国民が、政治的な抗議活動に進むのか、それとも、ロシア人がソ連時代からよく行ってきたように、国家のために耐え続けるのか。

 今年のロシアは国内総生産(GDP)が少なくとも4%低下し、インフレ率が20%に達することはほぼ確実であり、国民生活はさらに窮乏するだろう。

 ――ドゴールは「国家に真の友人はいない」と語った。ロシアには同盟国、もしくは潜在的なパートナーはいるのか。

 これは、新生ロシアの最も基本的な悲劇だ。ロシアは1990年代の初め、欧米が助けてくれると考えていた。それが近年、すべての希望は中国と結びつけられている。しかし、すでに明らかなように、中国の思考は現実主義であり、ロシアとの友好のために、米中関係から得られる利益を犠牲にしようとはしない。ロシアは孤独である。誰も、ロシアの過ちを正すために、自らの利益を差し出すことはない。残念ながら、われわれがそれを理解したのはつい最近のことだ。ロシアの指導層がそれを理解していなかったことは、大きな過ちであった。

 ――ロシアは自らの国際的イメージ向上のために多くを費やしてきた。ソチ冬季五輪の開催もそうだった。

 ソチ冬季五輪の成功、そしてロシア選手団の活躍は、国民に大きな喜びを与え、新生ロシアの国際的なイメージを向上させた。しかしそのロシアは、オバマ米大統領の言葉を借りれば、「エボラ出血熱に次ぐ、人類に対する2番目に重大な脅威」になり果てた。

 北大西洋条約機構(NATO)はロシアを脅威と再認識した。NATO加盟各国はこれまで、GDPの2%をNATOに拠出したが、これが3・5%に引き上げられた。ロシアのクリミア併合は、欧米の軍産複合体を強化する結果をもたらした。

 一方のロシアのシルアノフ財相は少なくとも国防予算を10%削減するよう強く主張している。ロシアは自らの首を絞めつつある。

(聞き手=モスクワ、イリーナ・フロロワ)