習主席の鉄腕統治 いずれ揺り戻しも

2015 世界はどう動く 識者に聞く(21)

評論家 石平氏(下)

300 ――香港の雨傘革命をどう見るか。

 学生らの民主化運動そのものは成功したわけではないが、習近平が勝ったわけでもない。中国は鎮圧したからといって何か得たわけではない。むしろ、運動が起きた時点で中国は敗北している。

 香港の若者は中国から心が離れ、国際社会も一国二制度は嘘(うそ)だということを理解した。その結果、台湾地方選で馬英九政権が大敗し、中台統一戦略も練り直さないといけなくなった。

 ――習近平体制というのは政敵を潰(つぶ)し、言論統制は強化する鉄腕統治を発動させているが、末路をどう見るか。

 今、順調に権力基盤強化に進んでいるように見えるが、まだどうなるか霧の中だ。

 「ハエもトラも叩く」といった木端役人も大物も汚職は徹底追及する不腐摘発を武器に、政敵を黙らせる効果は大きい。その気になれば、誰でも潰すことができる。中国では汚職していない人はいない。

 また、習近平の権力集中が急速に進んだのは事実だが、そういう政治をやればやるほど反発は大きい。

 そもそも中央の力で腐敗を一掃することは不可能だ。知識人の反発は別にしても、時間とともに徐々に溜(た)まっていくのは、党内の不満だ。本気で腐敗を許さないというなら、共産党幹部にとって死活問題となる。すでに、みんな構造的腐敗の中で生きており、ワイロを取れないというのは、命を半分奪われるような話だ。

 問題は習近平がいつ、その手を緩めるかだ。高圧的な政治手法に1年、2年、我慢して従っても、3年、4年となると、おそらく誰も我慢できなくなる。すると当然、別の政治勢力が党内の不満を吸収して、習近平と対抗するようになる。

 習近平の政治手法は、党内の幹部に対し秘密警察を差し向けるようなやり方だ。誰もが自分が調査対象になりかねない疑心暗鬼の恐怖政治の中にいる。中国共産党政権の中で、もう一度、文化大革命が始まったようなものだ。江沢民派にしても胡錦濤派にしても、今、じっと我慢している状況だ。こうした状況が長く続くことはない。

 しかし、その手を緩め腐敗摘発運動が中途半端に終わってしまうと、彼の一枚看板がなくなってしまう。そして国民の信頼は失われる。

 習近平はそういうジレンマに遭遇している。腐敗摘発をやればやるほど、国民の期待値は高くなる。魔女狩りというのは、国民を興奮させ、もっとやれと大衆心理が働くようになるからだ。だから国民を巻き込んだ狂気的摘発は歯止めが利かなくなり、簡単に止めることはできない。

 ――習近平の政治目標は、2年後の共産党大会で常務委員を子飼いの子分に入れ替えたいということなのか。

 政治闘争の面からすればそうだ。しかし、胡錦濤派を潰さない限り、政治闘争としての腐敗摘発を完了できない。

 ――今は、胡錦濤派の令計画が訴追対象になっているが、すでに江沢民派は終わったと見ていいのか。

 それは言えない。

 江沢民派でやられたのは引退した人ばかりで、まだ常務委員には4人いる。

 ――ただ次の共産党大会では引退になる。

 しかし、引退した後でやられるようなリスクは排除しようとするだろう。誰も、第2の周永康になりたくはない。力のある今のうちに反撃するだろう。

 だから、いずれか反動がくる。その時は、すさまじいことになる。オセロゲームのようにずらり並んだ白が黒に一変するからだ。その意味で、習近平の運命は全く分からず霧の中だ。

(聞き手=池永達夫)

=終わり=