中国の海洋大国化 米のリバランスで失敗も

2015 世界はどう動く 識者に聞く(19)

評論家 石平氏(上)

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せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍取得。

 ――中国は海洋国家に舵(かじ)を切ってきた。しかし、大陸国家が海洋国家に転じると破綻するという地政学的なテーゼからすると、中国の抱え込んだリスクは大きい。大陸国家が海洋国家へと転じて成功したのはローマと米国だけだ。

 中国の海洋国家建設は失敗に終わると思う。

 中国が海を狙うと、日米やアジア諸国も全部、敵にまわしてしまうことになる。

 中国は米国との軍事競争に乗り出すしかなくなる。米国はリバランス(再均衡)政策の柱として、2020年までに米軍艦船の6割をアジア太平洋地域に持ってくる。既に決めたことで、オバマ政権であろうと誰が政権を取ろうと関係がない。

 そのリバランスの対象国は明々白々、中国だ。今、中国がやっていることは、経済が衰退していく中で、米国と軍事的に対抗しようとしている。

 習近平時代になって、鄧小平時代の米国と対抗しないという方針を根本的に転換した。明らかにオバマ政権の脇の甘さを見てやっている。

 しかし、永遠にオバマ政権が続くわけではない。オバマが弱腰政権であればあるほど、次の政権は反動がくる。それが二大政党制の米国の強みでもある。

 ――日本だって民主党政権があったから安倍氏の右バネが急浮上した。

 習近平がオバマ政権はスキだらけと思って、思う存分、暴れまわる。米国に対する挑発的行為は傍若無人だ。しかし、それをやればやるほど、次の政権は逆の方向にいくしかない。

 ――アジアの安全保障というのは2年後、がらりと変化する?

 そうだ。2年後には大変革が起きるだろう。

 海洋大国中国を米国は絶対、許さない。米国は10万人の若者の血を流して日本と戦った。何のために戦ったのか。アジアの覇権を日本が握ることを許さなかった。今は、中国にそれを渡すことはできない。

 ――海洋というものは世界につながっている性格上、強力なシーパワーを持つ国同士の同盟関係が不可欠となる。米国がシーパワーを手に入れた最大のてこになったのは米英同盟だった。中国の場合、まともな同盟国家がないという致命的問題がある。

 海洋大国というスローガンはあるが、大陸国家であり続けた中国は海を本当には理解していない。

 中国がやっているのは、伝統的中華帝国の発想に基づく海洋戦略の発動だけだ。

 ――先ほど経済衰退の話が出たが、中国が中進国の罠に陥らないためには、労働集約型産業から脱して次のステップに上がる必要がある。

 「世界の工場」として豊富で廉価な労働力を駆使した労働集約型産業による成長モデルがいつまでも、有効ではないことは中国としても分かっているが、現実は難しい。

 産業のステップアップは、技術革新から始まる。だが国有企業にしても私有企業にしても、イノベーションそのものに関心がない。

 莫大な資金と有能な人材を投入して、こつこつ技術開発に汗を流し、金儲けをしようとは誰も思っていない。

 国営企業のトップは、みんな官僚の天下りで自分のものはないから、在任中の時だけ儲かればいい。私有企業はなお、そうした傾向が顕著だ。この中国は10年、20年後はどうなるか分からない。今、儲かればそれでいい。

 限られた経営資源の中、長期的経営を見込んで技術革新につぎ込むより、技術は盗めばいいし、偽物を作ればいい、さらに安いものを作って輸出すればいいし、不動産をやれば手っ取り早く儲かる。

 これだとあっという間に成長モデルが崩れるのを指をくわえて見ているだけで、国際競争力のある成長産業が育つわけがない。

(聞き手=池永達夫)