南北関係 「北=性悪説」で朴政権は臨め

2015 世界はどう動く 識者に聞く(11)

韓国自由民主研究院院長 柳東烈氏(下)

400 ――中朝関係がぎくしゃくしている。今後の見通しは。

 中朝は伝統的な友好関係を維持してきたが、核実験や長距離弾道ミサイル発射、ナンバー2で中国通だった張成沢・党行政部長の処刑などで中国側の対北朝鮮感情が悪化したのは事実だ。実際に中国は北朝鮮への原油輸出をストップした。国際社会の経済制裁が続く中で、北朝鮮としては生き残りを図るために中国に代わってロシアとの協力関係を強化するというメッセージを対外的に発信する必要があり、それを実行に移したのが昨年11月の崔竜海・国家体育指導委員会委員長の訪露だ。

 ロシア側も今年5月にモスクワで行われる予定の対ドイツ戦勝70周年記念式典に金正恩第1書記を招待した。ただ、金第1書記だけではなく、安倍晋三首相をはじめ他国の指導者も招待される。わずか30代前半の独裁者と単独で会談することは「格下」との会談を意味するため、プーチン大統領としては負担が大きくできないだろう。

 中朝関係が悪化したことと関連し、北朝鮮が中国と国交を断絶するとか、中国が北朝鮮を見捨てるといった話をする人もいるが、中国にとって北朝鮮の戦略的な価値は非常に大きく、そのようになることは今のところあり得ないのではないだろうか。

 ――戦略的な価値は今後も変わらないか。

 北東アジア地域において、中国にとって北朝鮮は米国を牽制(けんせい)してくれるありがたい存在だ。この地域では日米韓を中心とする海洋勢力と中国、ロシアの大陸勢力とのせめぎ合いが続いてきたし、今後も続くだろう。中国としては北朝鮮が暴れて、米国や日本、韓国などと敵対してくれるおかげで、直接手を出さずに済む。また中国は、西側陣営がコントロールできない北朝鮮に一定の影響力を行使し、時には言うことを聞かせることで、国際的な立場を高めてきた。

 本当に中国が北朝鮮を見捨てるつもりなら、鴨緑江と豆満江によって形成されている中朝国境ラインを封鎖し、人と物の出入りをシャットアウトするはずだ。言葉では北朝鮮を批判し、糾弾しているが、実際には国境ラインという「裏門」は開かれたままだ。

 ――金第1書記は新年辞で韓国に対し「最高位級会談」を提案してきた。今年、南北関係は進展するだろうか。

 まず「最高位級会談」が指す意味だが、北朝鮮は過去、韓国の金大中大統領や盧武鉉大統領が金正日総書記と会談した際、「最高位級会談」とは言わず「首脳会談」という呼称を使った。従って「最高位級会談」の北朝鮮側カウンターパートは、北朝鮮憲法上の国家元首である金永南・最高人民会議常任委員長である可能性が高い。

 韓国の朴槿恵大統領の対北朝鮮政策「韓半島信頼プロセス」は、北朝鮮が核を放棄し、各種の対韓国破壊工作を中止するなら大規模経済支援を実施するというもので、北朝鮮に対する支援では金大中元政権の太陽政策や李明博前政権の「非核開放3000」よりも踏み込んだものだ。

 問題は、性善説・性悪説で見た場合、韓国の歴代政権が北朝鮮に性善説を当てはめる傾向があった点だ。だが、私は金日成・金正日・金正恩と続く「金氏王朝」には性悪説を当てはめるべきだと思う。まともな話し合いをして物事の解決を期待できる相手ではない。朴政権がその点をどう考えているかが重要だ。

 金正恩体制が今後、長期政権を築くにはあと2~3年がカギを握ると見ている。その間に南北統一に向け韓国が主導的な立場に立ち、北朝鮮を揺さぶることができなければ、本当に長期政権を許すことになる。そうなれば世襲4代に道が開かれるかもしれない。

(聞き手=ソウル・上田勇実)