中国が仕掛ける歴史戦 日米提唱の法的秩序に反撃
2015 世界はどう動く 識者に聞く(20)
評論家 石平氏(中)
――今年、戦後70年ということで、中国は「歴史戦」を仕掛けてくる?
昨年、中国は日本との戦争に関わる二つの国家的記念日を決めた。一つは、9月3日の抗日戦争勝利記念日。もう一つは12月3日の南京大虐殺記念日を国家的追悼日に定めた。
両方とも大々的なキャンペーンを展開し、式典に習近平主席自身が出席している
今年もいくつかの記念日を節目節目に、国内でさらに大規模な反日キャンペーンを展開するだろう。さらに、国内向けのみならず、韓国もロシアも巻き込んだ外交戦にも出てくる見込みだ。要するに戦後の秩序を守る中国、戦後の秩序を攪乱(かくらん)する日本という構図をつくり上げたいのだ。
これは反日の問題だけではない。
今、中国は海洋戦略を打ち出して、南シナ海や東シナ海などアジアの海を支配し、アジア覇権といった形で中国中心の中華秩序をもう一度、つくり上げようとしている。
それに対し安倍政権は、米国と連携して法的秩序という概念を持ち出している。海の権益や航海の自由にしても、法に基づいた秩序を掲げ、アジアの自由と安全を守るというものだ。
しかし、日米が提唱している法的秩序を持ち出された暁には、中国は旗色が悪くなる。誰が見ても、力によらない法の秩序が正しい。アジアの多くの国々も、それに賛同している。
その安倍政権に反撃するため、習近平政権が持ち出したのが歴史問題だ。
相手を圧倒する対立の構図を中国流につくり上げようというわけだが、本当の対立の構図は日本が提唱している法の秩序と、中国の覇権主義的秩序、この対立が現実のアジアの国際政治の構図だ。中国は歴史問題を持ち出し、それをすり替えようとしている。
そういう意味では、今年、大々的にやるであろう「歴史戦」は、ただ歴史にこだわるだけではなく、中国の現実的な国際戦略を見据えておく必要がある。
――国内統治の手段でもある?
中国が経済的に厳しい状況を迎える中、習近平政権というのは国を束ねていく力としてナショナリズムに頼らざるを得ず、「民族の偉大な復興」を掲げ国民の前で常に強い中国、強い指導者を演じる必要がある。それでまた歴史を利用する。そうした国内と国際向けに歴史の利用を図らざるを得ないというのが中国だ。それが習近平のアジア戦略であり、対日戦略だ。
――安倍政権は今年、歴史問題に関する談話を発表する。
安倍政権は村山政権と対極にある政権だ。
米国との関係とか外交的配慮の下、安倍談話で村山談話や河野談話をはっきり否定してしまえば、逆に中国に突け込まれるチャンスを与えると危惧する人がいる。しかし、逆に言えば、この問題をはっきりさせないと永遠に中国にジョーカーを与えることになる。
オバマ政権ははっきり言って、能力もビジョンもないレームダック(死に体)政権だ。残す2年間、消化試合をするような政権に振り回される必要は何もない。
むしろ戦後70年を機に、村山談話は間違いだったとはっきりさせたらいい。
あれこそ間違った歴史認識で、日本は日本の歴史認識がある。
無論、歴史問題において日本も反省すべきものはある。私も戦前の日本の歴史をすべて肯定する積もりはない。とりわけ対中戦争は何の意味もない戦争だった。
ただ、反省すべき歴史はあるが、日本の戦前はすべて否定すべきものではないという立場を強調する必要がある。すでに日本はそうした歴史を超克しており、キリスト教でいう原罪を背負う必要はない。
(聞き手=池永達夫)