期待高まるへき地・小規模校へのICT導入
少子高齢社会の到来で人口減少が進み、地方においてへき地・小規模校が増加している。一方、ICT(情報通信技術)を導入することでへき地校などが抱える課題を解決しようとする取り組みが始まっている。北海道教育大学ではこのほど、全国の教育機関や教育者らをオンラインで結びフォーラムを開催した。(札幌支局・湯朝 肇)
北海道教育大学が「教育推進フォーラム」を開催
「少子・人口減社会に伴って学校規模の縮小化は全国的な課題となっている。現在、へき地小規模校教育に対する取り組みがなされているが、その一つとしてICTを活用することで多くの課題を克服できるのではないか。今回は既にICTを導入してへき地・小規模校教育に取り組んでいる地域・学校の先進事例に学びながら、さらに深めて全国に発信していきたい」――11月12日、北海道教育大学札幌校で開かれた「へき地・小規模校教育推進フォーラム2021」で同大学副学長である玉井康之氏は主催者を代表してこうあいさつした。
同フォーラムは、平成18年より始まり今回が19回目。全国の大学や道内各地の教育委員会、教育関係者約110人がオンラインでつながり、会場にも20人近くが集まり対面参加となった。
取り組みを紹介、小規模校を結び複数校の教職員が対応
この日は、パネリストとして豊田充崇・和歌山大学教育学部教授、鹿児島県徳之島町の福宏人・教育委員会教育長、北海道積丹町の十河昌寛・教育委員会教育長の他、前田賢次・北海道教育大学札幌校准教授らが出席し、それぞれの取り組みを紹介した。
ちなみにへき地校とは離島や山間地など都市的地域から離れた所にある公教育機関を指す。また小規模校とは小学校では全学年合わせて11学級以下(中学校では3学級未満)の学校をいう。北海道を例に取ると、道内のへき地学校数は児童生徒数の減少により小・中学校の統廃合が進められたこともあって減少傾向にあるものの、小・中学校ともに全体の約4割を占めている。もちろん、へき地校には、①教員と児童生徒の関係が密接で相互の信頼関係を形成しやすい②自然体験学習を含め体験学習のカリキュラムが組みやすい③一つの学級が少人数のため個に応じた指導の充実を図ることができる――などの利点はあるが、その一方で、①大きな集団での社会経験の場や機会が不足がちになる②学年や性別による児童生徒に偏りがある③交流相手が限定されるため学習場において、多面的に考えながら討議を展開することが難しい――などの難点もある。
こうしたへき地・小規模校が抱える課題に対して、ICTを活用した授業が大きな効力を発揮するのではないかと期待されているのである。
この日のフォーラムでは徳之島町の福教育長が同町の取り組みを紹介。町内にあるほとんどの学校が小規模校である同町では、12校を施設分離型の小中一貫校として取り組み、そこにICTを導入しているという。「近隣の小規模校同士を遠隔で結び、双方向で合同授業を展開しています。複数校の教職員がまとまり大人数で対応することでチーム化して取り組むことができます」と説明、さらに双方向の遠隔授業をスムーズに展開するポイントとして、「遠隔合同授業のための新しい学習モデルの作成や打ち合わせ機器の準備など日常化に向けた環境整備のための工夫や対策が必要」と強調する。さらに、遠足や修学旅行なども合同で実施するなど直接交流することも大事だと語った。
各学校の行事の時期や授業の進み具合が課題に
一方、日本海に面した海沿いの街にある積丹町の十河教育長は、遠隔授業は始まったばかりというものの、すでに5年ほど前からICT教育を導入し町内4校の小学校で進めている。
その成果については、「当初はネット環境の脆弱(ぜいじゃく)性の課題があったが、児童・教員の反応は良く、少ない予算で工夫して遠隔授業に取り組んでいる。多様な意見に触れることができ、『対話的な学び』『多面的な思考』の面で効果が大きかったと感じている。その一方で、各学校で行事の時期や授業の進度が違うことで調整が難しい面もあるので担任間の綿密な打ち合わせが不可欠。その辺を改善していきたい」と話す。
今回のフォーラムでは、ICTの弊害性については論じられることはなかったが、少なくとも自然豊かな環境を持つへき地の利便性を発揮しながら、学校間の綿密な連携の中でのICT教育は大きな教育的効果をもたらすと見込まれている。