がん教育、授業ではリスク回避、回復に重点を

 2人に1人が罹患(りかん)する悪性新生物(がん)に対する知識を持ってもらおうと、沖縄大学はこのほど、がん教育についての公開講座を行った。今年度から中学の授業で「がん教育」の授業が必修になり関心が高まっている。公開講座には、がん教育に携わる保健体育教諭や保健教育の専門家がパネリストとして参加、現状と課題について話し合った。(沖縄支局・豊田 剛)


中高でがん教育が義務化、沖縄大学が公開講座を開催

 「がん教育は、健康教育の一環として、がんについての正しい理解と、がん患者や家族などのがんと向き合う人々に対する共感的な理解を深めることを通して、自他の健康と命の大切さについて学び、共に生きる社会づくりに寄与する資質や能力の育成を図る教育である」

 文部科学省はがん教育をこう定義付け、中学校の保健体育におけるがん教育が今年度から始まっている。高校では22年度より始める予定だ。

 沖縄では2019年にがん教育総合支援事業が始まった。連絡協議会が立ち上げられ、がん教育の指導案を検討するがん教材検討委員会を開いた。また、外部講師養成や、教員を研修会やシンポジウムに派遣するなどの取り組みを行ってきた。同年から今年までがん教育モデル校を選定し、研究授業を行っている。

最大の原因はたばこ、検診・精密検査受診率の低さが課題

がん教育、授業ではリスク回避、回復に重点を

がん教育の現状を報告した山代寛氏=10月9日、沖縄県那覇市の沖縄大学で(リモート撮影)

 公開講座に参加したパネリストの一人、沖縄大学管理栄養学科の山代寛教授は、5年前から保健体育を学ぶ学生を対象に授業を受け持ち、がんは「防ぐことができる死」と教えている。がんの最大の原因はたばこで、「たばこがなくなれば年間約13万人の死を防ぐことができる」と説明した。たばこに次ぐがんの原因は感染性要因と飲酒で、「禁煙、食生活、節酒、適度な運動、適正体重維持の五つを守っていれば、がん罹患のリスクを半分に減らすことができる」と強調。低所得者の喫煙、食生活、飲酒は沖縄独特の問題だと付け加えた。

 沖縄におけるもう一つの問題は、検診と精密検査の受診率の低さだ。「コロナ禍で受診者が激減しているだけでなく、数値に引っ掛かっても精密検査を受けに行かない人が多いのが特徴だ」という。

 罹患者については、緩和ケアが必要で、生活の質を維持するためには社会、家族、友人の理解とサポートが必要だと指摘。授業で教えるに当たり重要なことは、①正しい知識をもってがんに向き合い、共に生きることを教えること②必要以上に恐れず、思いやりの心で接すること③特に沖縄ではがん罹患の要因をもっと排除できること――と締めくくった。

現場教育に課題、指導者は知識不足、外部講師の確保困難

がん教育、授業ではリスク回避、回復に重点を

がん教育の現状を報告した笠原健市氏=10月9日、沖縄県那覇市の沖縄大学で(リモート撮影)

 がん教材研究に携わってきた開邦中学校(南風原町)保健体育教諭の笠原健市氏が、沖縄におけるがん教育の取り組み準備と現場教育の現状について説明した。

 「教える内容は年間2時間。1時間目はがんの要因、種類と経過、国内における罹患状況、予防、早期発見・がん検診。2時間目は、外部講師を招き、健康と命の大切さについて主体的に考えることができるようにすることを主眼としている」

がん教育、授業ではリスク回避、回復に重点を

がん教育の現状を報告した砂川龍馬氏=10月9日、沖縄県那覇市の沖縄大学で(リモート撮影)

 その上で、笠原氏は①小児がんにかかったり、身近に患者がいる場合など、配慮が必要な生徒への対応をどうするか②指導者の理解と授業実践に必要な基本的知識が不足している上、実践事例が少ない③外部講師の確保が難しい④評価基準をどうするか⑤保健体育の授業だけでは難しく、家庭と地域社会との連携も必要になる――という五つの課題を列挙した。

 最後に、那覇市立石田中学校の砂川龍馬教諭は、「がんの年間死者数30万人は那覇市の人口と同程度。さらに、日本で2人に1人が罹患すると聞いて不安に感じる生徒が多い」と指摘。一方で、「がん=死ではない」と理解させるなど、回復についてはしっかり触れ、できる限りリスクを避けることを教えることが大切だと述べた。