EU VS 英 離脱後も亀裂深まる

英南西部xコーンウォールで会談するミシェルEU大統領(左)、ジョンソン英首相(中央)、フォンデアライエン欧州委員長=6月12日(AFP時事)

英南西部xコーンウォールで会談するミシェルEU大統領(左)、ジョンソン英首相(中央)、フォンデアライエン欧州委員長=6月12日(AFP時事)

 英仏海峡で英仏の漁業権をめぐる対立がエスカレートし、英領北アイルランドが欧州連合(EU)の単一の商品市場に留め置かれていることへの不満が強まっていることが、EU英関係に亀裂をもたらしている。この二つはブレグジット(EU離脱)協定で最後までもめた項目で、ブレグジット後もくすぶり続けている。
(パリ・安倍雅信)

漁業権、北アイルランドで対立
英、仏の強硬姿勢には断固対抗

 フランスのボーヌ欧州問題担当相は先週、パリでのフロスト英離脱担当相との会談は「有益で前向きだった」と述べた。「対話が可能であると思われる限り、交渉を続ける」と付け加えたが、関係者らは事態の悪化は止められていないと指摘する。

 フランスのジラルディン漁業相は10月27日、2隻の英漁船が、フランス北西部ルアーブル港沖でホタテ漁の時期に実施される通常の検査を受けていたが、うち1隻が指示にすぐに従わなかったため、罰金を科したことを明らかにした。もう1隻はフランス領海での漁業許可を持たずにセーヌ湾で漁をしていたため、拿捕(だほ)したという。

 結果的にフランスは拿捕した漁船を解放したものの、フランス側は英国の漁船やトラックへの検査を厳格化することや、英仏海峡の島への電力供給を断つこともできると警告した。マクロン大統領は制裁措置を延期したものの、英国側はフランスが英国漁船の入港を阻止すると述べていることに対して、国際法と通商協定に違反すると批判した。

 フランスが強硬措置を取れば、断固とした対抗措置を取ると英首相府は述べている。フランス側は「双方による協議が続く限りは制裁に踏み切らない」としているが、ブレグジットとともにEU加盟国の英国周辺海域での操業を食い止めたかった英国は姿勢を変えていない。ただ、フランス近海で獲れた魚介類を直接、フランスの港に水揚げし、EUの流通ルートに乗せており、話は複雑だ。

 一方、英領北アイルランドと英国本土に生じている物資のチェックの煩雑さも、EUとの対立を深める一因になっている。EUは、離脱協定にある北アイルランド議定書が多くの企業に困難をもたらしていることは認めている。そのため、北アイルランドと英本土を横断する商品のチェックと管理を簡略化する提案を行っているが、英政府は受け入れていない。

 そもそも北アイルランド協定は、ブレグジットの鬼門とされ、EU加盟国のアイルランドと英領北アイルランドの間の地続きの国境にブレグジットで壁や検問所を造ることを避けるためだった。結果、通商上は北アイルランドを英国から切り離し、EUに留まらせることで合意した。北アイルランドとアイルランドの間に検問所はできていないが、北アイルランドと英国本土間に問題が発生している。

 英国のブレグジット担当相でもあるフロスト内閣府国務相は10月12日、「アイルランド・北アイルランド議定書」について「機能していない」との危機感を示し、EU側に対応を求めた。難航する同議定書に関する協議を早期に終結させたい姿勢を見せた。

 フロスト氏は、現在の議定書は離脱後の英EU間の関係が不透明な段階で作られたもので、不確実性が高いとしたほか、通常の国際協定と同様、英EU間の問題はEU司法裁判所ではなく、国際仲裁によるべきと主張した。さらに英国側は議定書の修正案を欧州委員会に提出したことを明らかにした。

 また、納得のできる解決策の提示がなかった場合は、議定書第16条で定めている一方的な緊急措置の適用も辞さないと警告していた。欧州委員会のセフコビッチ副委員長は11月6日、英国が第16条を発動した場合、「深刻な結果が生じる」と警告した。

 一方、北アイルランドと直接国境を接するアイルランドのマーティン首相は、英国が第16条を発動することは「無責任で無謀だ」と述べている。漁業権をめぐる仏英の対立はオランダにも波及しており、北アイルランド通商問題とともにEU英間の亀裂は深刻な段階に差し掛かっている。