解散、就任直後に「電撃」表明 岸田首相
「ご祝儀相場」で優位狙う
短期決戦に野党警戒
岸田内閣が発足した。就任記者会見で岸田文雄首相は衆院選を「19日公示-31日投開票」の日程で行うと表明。当初の想定より1週間の前倒しで、「電撃的」な打ち出しは新政権発足直後のご祝儀相場の雰囲気をフル活用し、スタートダッシュで選挙戦を優位に進める思惑が透ける。野党は短期決戦となることに警戒を強めている。
「衆院任期は21日までだ。空白をできるだけ短くしなければいけない」。首相は4日夜の会見で前倒しの理由をこう説明。「いの一番に岸田にお任せいただけるか判断をいただきたい」と訴えた。
◇サプライズ
首相は就任前から今国会の会期末である14日に衆院を解散する意向とされ、衆院選の日程は「26日公示-11月7日投開票」が軸とみられていた。地方自治体や在外投票の準備に一定期間を要するためだ。
解散から投開票まで、戦後最短は1983年の20日間。今回、投開票までの期間は83年を更新する17日間となる。複数の関係者によると、首相は解散・総選挙日程を早めに周知することで31日の投開票は可能と判断した。政府関係者は、秋篠宮家の長女眞子さまの結婚と公示が重なる事態も避けられると指摘する。
前倒しは、新政権に勢いがあるうちに衆院選を乗り切るのが主眼だ。内閣支持率は発足直後が一番高く、その後は低下する傾向にある。岸田内閣は初入閣組が3分の2近くを占め、手腕には不安もつきまとう。首相と共に選挙の「顔」となる自民党の甘利明幹事長は過去の「政治とカネ」の問題を引きずる。自民党のベテラン議員は「ぼろが出る前にということだろう」と解説した。
首相は選挙日程を安倍晋三元首相らには事前に伝えた。4日朝、首相からの電話で知らされた党幹部は「こんなに早くなるとは」と驚きつつ、党内は「サプライズだ」などとおおむね好感している。公明党幹部は「首相は決断力を示した」と歓迎した。
もっとも、公示日と投開票日はいずれも仏滅に当たる。自民党内には「縁起が悪い」(関係者)と懸念する声もある。
判断を後押しした背景には、新型コロナウイルス感染再拡大への懸念もあったようだ。新規感染者数は急減しているが、専門家には年末にかけて「第6波」襲来を予測する向きが多い。2021年度予算に計上したコロナ対策予備費5兆円は年内にも底を突くという。自民党関係者は、11月前半にも特別国会を召集し、補正予算案を処理する必要があると語った。
◇メディアジャック
「しっかりと政権を取らせていただかなければならない。そういう戦いだ」。立憲民主党の枝野幸男代表は4日の党会合でこう語り、衆院選に臨む意気込みを示した。
首相の表明を受け、野党も走りだす。立民は共産党との候補者調整について、現在残っている競合区約70選挙区のうち、勝利が見込める10~20程度で一本化を急ぐ。
問題は菅義偉前首相の退陣で政治状況が一変したことに加え、自民党総裁選が行われた約1カ月間、報道が自民党に集中し、見せ場をほとんどつくれなかったことだ。
共産党の志位和夫委員長は記者団に「テレビジャックをして議論を封殺したまま選挙をやるのはあまりに乱暴だ」と非難。立民の安住淳国対委員長も記者団に「メディアジャックをして化けの皮が剥がれないうちに選挙をしようと焦っている」と断じ、「しっぺ返しもあると思う」と語った。
(時事)