男子生徒自殺問題は「部活顧問との関係が原因」

 沖縄県の県立高校2年生で、運動部主将だった男子生徒(当時17)が1月末に自ら命を絶った。この問題で、県教育委員会はこのほど、部活顧問との関係によるストレスが自殺原因とする第三者チームによる調査報告を発表。その中で、生徒の悩みに気付けなかったことや、相談体制も整備されていなかったことを認め、謝罪した。今後、“勝利至上主義”に傾きがちなスポーツの特別推薦入学者に対する入部確約の是非、そのアフターケアが問われることになりそうだ。(沖縄支局・豊田 剛)


県教委第三者チームが沖縄県立コザ高校の問題を調査

男子生徒自殺問題は「部活顧問との関係が原因」

金城弘昌沖縄県教育長

 記者会見で、金城弘昌教育長は「部活顧問との関係を中心としたストレスがあった」とする第三者チームによる調査報告書を発表。「生徒の悩みや苦しみに気付けず、相談体制づくりもできていなかった。防げなかったことに対して慚愧(ざんき)の念に堪えない。重い責任を感じており、心よりおわび申し上げる」と謝罪した。

 男子生徒は2019年4月に「部活動特別推薦」で県立コザ高校(沖縄市)に入学。主将になった20年7月ごろから、男性教諭に「キャプテンを辞めろ」などと何度も叱責されていた。また、スマホ通信アプリ「LINE(ライン)」で深夜まで部員に連絡させられたり、部活動費を得るため古紙回収作業をさせられたこともあった。男子生徒は叱責された翌日の今年1月29日に遺書を残して、自ら命を絶った。高校名は遺族の意向で公開された。

 弁護士らによるチームは2月16日から3月5日まで、遺族や職員、同級生ら約20人に対面での聞き取り調査を実施。生徒は日常的に顧問から大会での成績を挙げるようプレッシャーを与えられたり、「主将を辞めろ」といった言葉を浴びせられたりしていたという。部員への連絡で「常に緊張状態に置かれ、多大な精神的疲労を抱えていた」と結論付けている。

特別推薦入学のあり方が議論に、別の問題事例も未報告

男子生徒自殺問題は「部活顧問との関係が原因」

運動部主将の自殺者が出た沖縄県立コザ高校=沖縄県沖縄市

 推薦入学した生徒は「活動継続確約書」の提出を求められていたことから、県は、生徒が部活動を辞めたら退学になると思い、追い詰められる要因になったと推論した。

 これについて金城教育長は「勝利至上主義に基づく過度のプレッシャーを与えられ、精神的に追い込まれていた様子がうかがわれる。学校教育全体の中で仕組みづくりをしていきたい」と述べた。

 また、報告書によると、顧問は17~18年ごろ、別の生徒に対しても、強い口調で接したり、女子部員の鼻に指を入れたりするなど過去にも問題事例があった。高校はこの2例について県教委に報告していなかった。この教師は現在、病気療養中で、県教委は退院後に事情聴取を行うという。

男子生徒自殺問題は「部活顧問との関係が原因」

東盛敬沖縄県立コザ高校校長

 こうした中、沖縄県教育庁保健体育課は3月30日、部活動に関する体罰・ハラスメントや悩みの有無などを調べるため、高校や特別支援学校計85校に部活動の実態調査アンケートを出した。新2、3年生のすべての部活動の部員や保護者、教職員・部活顧問・外部コーチが対象で、11日までの間、回答を集める。

 4月中に大学のスポーツ研究者やPTA連合会など第三者を交え、部活動のあり方について考える検討委員会を立ち上げ、アンケート結果を分析し、方針について検討する予定だ。

 本来、運動部の活動は、スポーツを通して心身を健やかにすることにある。県教委の一人は、「これは沖縄だけではなく全国の運動部でも起こり得る問題だ。生徒の心のケアをしないままの勝利至上主義は良くない」と指摘。現在、県内10校程度で実施されている特別推薦入学の入部確約の見直しが迫られそうだ。