ナゴルノカラバフ紛争の“教訓”
日本対外文化協会理事 中澤 孝之
勝敗決めた軍用ドローン
「攻撃型」導入に本腰入れる露
旧ソ連構成共和国のアルメニアとアゼルバイジャンは昨年9月27日から1カ月半近く、アゼルバイジャン領内のナゴルノカラバフ自治州をめぐって激しい大規模な戦闘を展開していたが、ロシアの仲介もあって両国は11月9日に停戦協定に署名した。双方に6000人近い死者を出した戦闘の停戦は翌日、発効した。
両国は先進的な軍事技術を駆使したが、戦争で圧倒的な勝利を収めたのは、アゼルバイジャンであった。アゼルバイジャンはアルメニア側から攻めこられて失っていた領土の大半を奪還した。主要な勝因は、UCAV(無人戦闘航空移動体[軍用ドローン])の巧みな利用にあったといわれている。
世界最大の輸出国・中国
軍用ドローンは有人軍用機に比べて比較的軽量で、ステルス性もあり、人的被害などコストを低く抑えられる。軍用ドローンの高い有効性が今回のナゴルノカラバフ紛争で証明されたことで、核爆弾・核ミサイルを使用しない小規模な軍事衝突での軍用ドローンの使用機会がさらに増えるものと見られている。
アルメニア、アゼルバイジャンともに従来、兵器をロシアに依存してきた。特にアルメニアは旧ソ連製の旧式兵器が多く、防空ミサイル網はロシア製。アゼルバイジャン軍はドローンを駆使して、アルメニア軍の防衛網を突破した。戦闘での被害状況を分析した専門家グループによれば、アルメニア側はロシア製の地対空ミサイル「S300」など26基、戦車「T72」130両以上が破壊された。アゼルバイジャンのドローンの損失は25機にとどまったという。
アゼルバイジャンは2011年以降、ロシアから兵器を購入した。ロシア製多連装ミサイルランチャー「スメルチ(死)」などが、今回の戦闘でアルメニア兵士の死者約2700人の半数近くを殺害したといわれる。さらにアゼルバイジャン軍はイスラエル製の軍用ドローン「ハーピー」や新型ミサイルを多用。アゼルバイジャンはまた、同じイスラム教の国という共通の繋(つな)がりを持つトルコの支援を受けて購入したトルコ製の攻撃型軍用ドローン「TB2」の活躍が目立ったという。
一般的な大小のドローンは民間の物資運搬用として便利だが、軍用ドローンの場合、中小国家にとって、遠隔操作システムにより有人軍用機よりも安価で、空軍力、センサー、精密誘導兵器の利点を有する。また、攻撃型ドローン自体がミサイルとなって、敵目標に突入する「ハーピー」のような自爆型ドローン(徘徊(はいかい)型兵器)も開発された。
中国は早くから軍用ドローン開発を進め、特にイラク、イラン、エジプト、リビア、ナイジェリアなどでの内戦やISIL(イスラム国)といったテロ組織殲滅(せんめつ)作戦で軍用ドローンを活用する発展途上国への積極的な輸出に努めて、今や世界最大の軍用ドローン輸出国となった。トランプ前米大統領は昨年12月18日、中国製や中国の技術が使われる軍用ドローンの調達を見直すよう指示する大統領令に署名した。中国製ドローンの運用を通じて、機密に触れるような情報が敵国に渡る恐れがあり、国の安全保障を脅かすというのが理由だという。
一方、ロシアの場合、これまで偵察用の軍用ドローンは開発、配備してきたが、攻撃型ドローンの開発は遅れていた。ロシアのメディアは「ロシアはドローン革命で眠り続けている」「戦闘でのドローンの役割が高まり、ロシアは開発を急ぐ必要に迫られている」などと指摘し、攻撃型ドローンの開発を要求し始めた。
開発進める露スホイ社
ロシアはナゴルノカラバフ紛争でのドローンの活躍に着目し、攻撃型ドローンの導入に本腰を入れ始めたと伝えられる。ロシアのメディアによれば、ロシアは最近、ソ連時代から知られた大手軍用機メーカー「スホイ」が製造した大型ドローン「アホートニク(狩人)」が、爆弾実験を実施したという。このドローンは重さ約20トン、ステルス機能を備えているとか。また、昨年末には、重量約1トンで、24時間以上航続可能なドローン「オリオン(別名イノホジェツ=側対歩する馬)」が小型誘導爆弾の発射に成功。セルゲイ・ショイグ国防相は実戦配備に意欲を示したと伝えられる。21世紀は「軍用ドローン時代の嚆矢(こうし)」として歴史に残るのではないか。
(なかざわ・たかゆき)











