絶滅危機の駿河湾サクラエビ

一般社団法人生態系総合研究所代表理事 小松 正之

海洋生態系の悪化深刻
重視すべき陸・河川との関係

小松 正之

一般社団法人生態系総合研究所代表理事
小松 正之

 サクラエビ漁を抱える静岡県の漁業の衰退は壊滅的である。最盛期の38万㌧(1988年)が現在では29%の11万㌧(2019年)である。日本全体の漁業生産量の減少率33%より大きい。静岡県の川勝平太知事も県行政も委員会を設置はしたが、効果的対策を講じていない。

禁漁水準まで漁獲激減

 駿河湾の湾奥に位置する田子の浦と富士川河口付近は従来、サクラエビの産卵場であり、春の漁場である。秋の主漁場は大井川付近だが、双方の漁場で不漁が続き、近年では1000㌧をはるかに下回り、19年は175㌧(春85㌧、秋90㌧)、昨年の春漁は26㌧であった。11月1日から始まった秋漁も初日に4㌧の漁獲があり、12月23日までで約100㌧で終了した。ピーク時には約8000㌧(1967年)の漁獲量があったが、昨年の126㌧はその1・5%でしかない。これは漁業を続ける水準ではない。世界の規範では禁漁水準である。

 2019年は漁業を始める前から、サクラエビ漁をするべき資源量が存在しないことは、漁獲量の推移から明白だった。無いに等しい漁獲量、流入河川水と産業排水、富士川と田子の浦の海岸の状況で判断すると、昨年の秋漁(11月1日から12月23日まで)の実施は不適切であった。

 そして、この資源は「ワシントン条約」(絶滅の恐れのある動植物所の国際取引に関する条約)の基準に照らせば、明らかに絶滅の危機にある。その資源の漁獲行為はこれをさらに悪化させるし、資源を消滅させよう。また、操業しても経済行為として成り立たない。結果的に漁業共済補償金という補助金の獲得が目的であるとみられても妥当であると判断される。資源の回復目標に反する操業を行う漁業へのこの補助金は、さらに資源を悪化させることにつながる。

 サクラエビの不漁は、漁業の問題をはるかに超える陸、河川と海洋生態系の問題である。

 1890年に富士製紙が汚水を田子の浦に流れこむ潤井川に放流したことに始まり、1970年代、大昭和製紙工場などの由来のヘドロ蓄積と排水の問題で、汚染水と汚染物質が駿河湾の環境を極めて悪化させた。

 現在でも、製紙工場は原料に対して約200倍の水量を必要とする。結局、使用後の排水が化学物質を含みながら海洋に流出する。富士地区では田子の浦でダイオキシン類の排出などの環境ホルモンが観察される。

 一般社団法人生態系総合研究所は昨年、大井川から駿河湾北海域を流向・流速、栄養(クロロフィル量)、溶存酸素量(DO)、塩分、水温と濁度(FTU)などの基本的科学指標を測定し調査した。10月31日午後の上げ潮時に、田子の浦と狩野川の中間点から富士川河口、日本軽金属(日軽金)蒲原工場の排水路、由比川河口、興津川沖、三保の松原沖、久能山沖、安倍川沖、最後に大井川河口と大井川沖を調査した。

 11月1日午前の下げ潮時調査では、田子の浦内の沼川を皮切りに、富士川本流の河口域、日軽金蒲原工場の排水路沖、清水港沖、清水港と大瀬崎を結んだ中間点、大瀬崎、内浦湾と狩野川河口、田子の浦に戻り潤井川を調べた。

 この調査でも田子の浦と日軽金蒲原工場の排水路沖の濁度(化学的汚染物質か)の高さが目立った。富士川の極少水量、河川敷のシルト・粘土質と少ない富士川の栄養(クロロフィル量)が問題である。サクラエビはこのような環境では禁漁しても資源は回復しないであろう。

 この調査で判明したことは、現在の駿河湾の陸・川と海洋生態系の関係が悪化したことである。地球温暖化で海洋の生産力は2100年までに21・95%低下する(19年国連海洋雪氷圏報告書)。現実の駿河湾の海洋生態系の劣化・悪化と漁業の悪化と衰退はそれをはるかにしのぐ。

日本各地で同様の現象

 この駿河湾と富士川他の関係は、日本の沿岸域と河川との関係で、数多くの場所で見られる。瀬戸内海、三陸沿岸、北海道沿岸でも然(しか)りである。ますます、陸と河川と陸上の人間活動と海洋の関係を包括的に見て、産業・都市構造・活動を見直すことが解決策として不可欠である。

(こまつ・まさゆき)