えほん教育で昔話は内的に捉えることが大事
えほん教育協会 浜島代志子代表に聞く
絵本の読み聞かせをライフワークとして研究している浜島代志子さんはこのほど、松戸市民劇場(千葉県松戸市)で傘寿記念公演を行った。公演で伝えたかったこと、正しい絵本を子供たちに読み聞かせることはなぜ重要なのか、聞いた。(聞き手・豊田 剛)
松戸市民劇場で「浜島代志子傘寿記念公演」を行う
――傘寿記念公演を終えての感想は。
9月26日、松戸市民劇場で久しぶりの公演だった。50年かけてやってきた活動のまとめであり、育ててきた後継者のお披露目の場でもあった。
絵本8作、語り芝居2本、ミュージカル2本。コロナ禍ではあったが、どうにか昼夜2公演ができた。かなり無茶な企画と思うかもしれないが、こんな時期だからこそ、人が人に物を語ることが大事だ。今こそ語らないでいつ語るのか。
コロナ禍で分かったことは、芸術文化、子供への教育が緊急度では最下位にされたということだ。
傘寿公演で大きな舞台は終わりにするつもりだったが、お客様やキャストの熱に感じ入り、続けることにした。やってよかった。すべてに感謝している。
――発表した題材ではどのようなメッセージが込められていたのか。
自粛ムードで人の心は萎縮してしまった。こんな時だからこそ本質・本格を人は求めている。今回発表した天童ミュージカルは本質をズバッと突いた作品にした。
「山椒太夫」は説経節で行った。ほぼ原文の語りとミュージカルの融合だ。「許し難きを許し愛し難きを愛す」というメッセージが込められている。
続いて「アンデルセン」。極貧の家に育ったアンデルセンが探し続けた永遠の魂とは何か。アンデルセンは夢を諦めなかった。
絵本を大型スクリーンに映して弟子の絵本講師が語った。8作のうち7作は私が書いている。
昔話には生きるための知恵や勇気、道標がある
――絵本で家庭再建国民運動を主唱している。良い教材はあるのか。
家庭が、子供を育てることが主題となった有名な絵本に、ドイツの昔話「赤ずきん」がある。この物語は、女の子の成長物語でもあり、女性3代の物語でもある。昔話は表面的に捉えるだけでは深い意味が分からない。内的に捉えることが大事だ。
――もっと詳しく教えてください。
赤ずきんが森で出会うオオカミの正体(=役割)は何だろうか。実際のオオカミなら赤ずきんを食い殺してしまうはずだが、赤ずきんはオオカミの腹から飛び出して「あゝ、びっくりした。オオカミのおなかの中って真っ暗なのね!」と言う。
どんな意味があるのか。甘い言葉にだまされたり良かれと思ってやったことが大失敗だったりすることもある。そんな時には静かに一人で考える時間が必要だ。成長するための場所と時間、それがオオカミの腹の中というわけだ。
ひどい絵本がある。「赤ずきんはオオカミに食べられてしまいました」で終わるのだ。
赤ずきんという女の子の成長物語を語るという本来の目的から外れてしまっている。成長するのは赤ずきんだけではない。おばあさんもだ。
大事なことは赤ずきんが一段階、成長したということだ。ここをしっかり押さえておきたい。
昔話の結末を変えてはいけない。生きるための知恵や勇気、道標(みちしるべ)が語られているのだから。
――絵本に対するリテラシーを身に付けるにはどうしたらいいか。
教育に取り組む政治家を育てることが大切だ。教育を国の根幹として大きな予算をつけるべきだ。今のままでは日本の未来が危ない。個人の権利ばかりが主張され、日本の教育は危険水域に入っているとひしひしと感じる。
童話『スイミー』のように力を合わせて一つになれば大きなマグロも追い出せる。『ひよこのコンコンがとまらない』のお母さんのように、命懸けで子供を守る母の愛を語っていけば、母性に目覚める。『あいうえおの き』のように意味のある言葉で行動すれば政治も動くだろう。