報道・人権国際組織との協力、政府も保守派ももっと関心を
菅新首相就任に際し最も厳しいメッセージを寄せたのは、国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団」(RSF)(本部パリ)だろう。
それは、RSFの「世界の報道の自由指数」ランクで2012年に22位だった日本が今年は66位に低落していることを挙げ、報道の自由の回復に努めるよう強く求めていた。菅氏は特に「安倍政権がジャーナリストに敵対的な風潮を生み、報道への介入を企てた責任」を共有しているとした。
そして①記者会見で東京新聞記者の質問への回答を繰り返し拒否した、②新型コロナを口実に政府記者会見を大幅制限した、③福島原発災害や米軍沖縄駐留など、国に具合の悪い問題を追ったジャーナリストは、ネットで極右派から攻撃をいっぱい受けている――などと改めて指摘した。
RSFは4月、政府がコロナで緊急事態宣言を出すとすぐ、報道の自由への懸念を表明した。日本は、非常事態宣言を言論統制に利用する強権政権並みに警戒されていたのだ。
自由指数ランクは、民主党政権から安倍政権になって急落した。一方、韓国は朴前政権時代の16年は70位(でも日本より上)だったが、今年は42位でアジア最上位である。
RSFの指摘は日本の左派メディア、新聞労連の主張と重なる。自由指数調査も主に左派に依存しているのだろう。韓国では、現左派政権陣営とのパイプが太いのだろう。
その指摘もランキングも偏向している。だが「どうせ左寄り組織」と片づけてすむだろうか。そうは思わない。世界で中国の権勢と強権政治が広がり、人権や言論・報道への抑圧が増している中、RSFは最も激しくそれと闘っているからだ。
RSFは世界の報道人の死者、投獄・拘留者の情報を集め、報告している。投獄・拘留者は増加しており17年末326人、18年末348人、19年末389人。今年は現在374人で、中国が117人と断トツだ。
RSFは最近ほぼ週1ペースで中国と香港の現状を告発してきた。コロナ情報関連で拘留されている報道関係者など6人の即時釈放を求め、「ノーベル平和賞受賞者、劉暁波氏の没後3年、少なくとも10人の『報道の自由の擁護者』が獄中におり、生命が危ない」と訴え、汚職事件を報じた中国人3人に有期刑が宣告されたと非難した。香港の国家安全維持法関連でも、蘋果日報創業者らの逮捕など事あるごとに抗議し、訴えてきた。国連に台湾メディアの取材を認めるよう訴えたりもしている。
巨象の習近平政権から見ればRSFはせいぜいハチに過ぎないが、このハチは執拗(しつよう)に刺し続ける。
RSFは、仏政府、国連や欧州や米政府関連の機関、民間団体から援助や寄付を受けている。一昨年国際委員会を立ち上げ、「情報と民主主義のパートナーシップ」のイニシアチブをとった。オンライン情報通信での自由と民主主義の原則を確立しようというもの。仏政府がその協定作りの音頭をとり、今年6月までに37カ国が協定に参加した。アジアからは韓国とインドだけ。RSFの発表文では、韓国を「アジアのチャンピオン(闘士)」と呼んでいる。
日本の政府や保守派も、報道の自由や人権擁護の有力組織に一層の関心を払い、協力すべきではないか。協力を左派の専売特許にさせていてはダメだ。例えば日本政府にとり、今後、自由や人権の問題で中国にどう働きかけて行くかは、重要テーマになる。こうした組織や国連人権理事会特別報告者などとの意見・情報交換をもっと行い、前記の様な協定への参加なども積極的に検討すべきではないだろうか。
(元嘉悦大学教授)