新しい発想で介護・農業の人材不足解消に貢献
軽度知的障害者支援施設「はらから蔵王塾」の取り組み
特別支援学校を卒業した軽度知的障害者を対象に、人材不足が深刻化する介護現場や、後継者不足の農業生産現場で活躍する人材の育成に4年間にわたって取り組む、障害者カレッジともいえる新しい発想の福祉事業所「はらから蔵王塾」が平成28年4月から、宮城県刈田郡蔵王町で始まった。東北初、全国でも珍しい取り組みだ。(市原幸彦)
宮城県刈田郡蔵王町で、自立や社会参加目指し実習訓練
場所は、蔵王連峰の麓に建つ貸し別荘「蔵王山水苑」の一角。4月には2人の新塾生を迎え、現在15人の塾生が通い学んでいる。塾を運営しているのは、社会福祉法人はらから会(本部=宮城県柴田郡柴田町、武田元理事長)。「はらから」は同胞のこと。「高齢者も若者も障害のある者もない者も、誰しもが安心して暮らせる町づくりを目指しています」と小熊久男塾長。
はらから会は他に、障害者が働く場を9カ所、グループホームを10カ所、県内外で運営し、大豆など食品加工を通じて自立と社会参加を目指している。特に、はらから蔵王塾は、福祉および農業関係を担う人材を育成することを最大の目的としてカリキュラムを組んでいる。
対象となるのは、特別支援学校の高等部の卒業者。さまざまな力を付けてもらい、一般企業にも就業の道を開くため、大学と同じ4年間きっちり学ぶ。学校基本法でいう学校ではなく、社会福祉法人はらから会が運営する福祉作業所としての位置付けだ。自宅またはグループホームから通う。時間は午前9時から午後4時まで。日曜日と月曜日が休日。料金は昼食代等のみ実費。定員20人。
最初の2年間は本人の自立訓練期間だ。日常の生活を規則正しく、自立して生活できるように訓練をする。まず、歩く訓練を徹底するという。毎日45分、2列になって手をつなぎながら、列を離れないように練習する。
小熊塾長によれば「障害者は、二足歩行がなかなかうまくいかない場合が多い。ダイナミックリズムという手法を取り入れ、音楽に合わせて行進したり、小走りしたり手をたたいたりする。きちんと歩くことで気持ちや脳が安定して、スムーズに次の作業に入れるようになります」と訓練の効果を語る。
公文式学習も取り入れている。算数や国語など、能力に応じた教材を提供して、スタッフが教える。ほとんどが分数の約分もできるようになったという。その他、パソコン実習、清掃・食器洗いも行う。
後半の2年間は、具体的に就職するための条件整備を行う。農業と介護施設での就業に重きを置いている。稲作からネギの出荷作業など、さまざまな農業体験を通し農業に耐えられる自立を目指す。稲作は、種まきから除草、稲刈り、天日干し、脱穀まで行う。「農業機械も扱えるまで成長し、農業機械で使用する混合油の割合の使い分けができるようになった学生もいます」と小熊塾長。
介護作業では、ベッドメーキングから個室の清掃も含め、介護ヘルパー資格取得を目標としている。実習で、はなみずきの会など他の社会福祉団体と共に、介護施設で入居者と編み物やゲームをしたりする。「介護施設では人間が相手のため、コミュニケーション能力を高める訓練にもなります」。東北福祉大学(仙台市)のゼミ生との共同作業も行うことも。
就学修了前に学生が4人就職、関係者に「手応え」も
4年間の就学修了前に就職した学生が4人いる。清掃業に1人、キノコ栽培の農業分野に2人、弁当製造業に1人だ。保護者同伴のオープンキャンパスも毎年秋に開催している。
スタートしてから4年。小熊塾長は「成果が上がって間違いなく働いていけるようになった塾生もいれば、そのレベルに到達できず、ハードルを下げざるを得なかった塾生もいるが、手応えを感じています。障害者の人材育成を地域の皆さん、特に福祉および農業関係者と共にさらに進めていきたい」と語っている。