北海道・白老東高校、「地域学」開設で郷土愛育成
北海道が進める「OPENプロジェクト」の一環
開かれた学校教育が叫ばれる中、学校と地域の連携は緊急の課題になっている。とりわけ、地方において地域を支える若い人材の養成が求められている。そうした中で北海道では今、高校生が自ら地域の課題を見つけ、企画立案から解決を目指す「高等学校OPENプロジェクト」が進行中だ。その一つ、太平洋に面した白老町にある白老東高校では「アイヌ文化」で地域振興を考える「地域学」を開設、地域への理解と郷土愛の育成を目指している。(札幌支局・湯朝 肇)
木彫りや舞踊などのアイヌ文化を学ぶ
「白老町は北海道の中でも豊かなアイヌ文化を残し、その情報発信地となっています。先住民族の文化を理解し、地域づくりに貢献していくことは高校生にとっても意味のあることだと思います」--こう語るのは北海道白老東高校の今野博友教頭だ。
同校では3年前の平成29年度から学校の教育設定科目として「地域学」を開設。同科目を選択した生徒たちがアイヌ文化や地域の歴史への理解を深めるための系統的な学習を行っている。具体的なカリキュラムを見ると、前期(4月から9月まで)は、アイヌ語演習からアイヌ語地名と伝承を知るためのフィールドワーク、地元白老のアイヌ文化やアイヌ民族の歴史学習、木彫りの体験や伝統古式舞踊、楽器の実演など多彩な内容となっている。
また、後期(10月から翌年1月まで)では、アイヌ民族に伝わる食文化や川漁などの狩猟体験、さらに縄文時代の遺跡から明治以降の白老開拓の歴史そして現在までの産業についても地元の講師を招いて講座を持つなど緻密な指導計画が練られている。
「1年間学んだ最後の授業で生徒たちは、取り組んだ内容を資料としてパワーポイントにまとめ発表する機会を持っています。『地域学』を通して気付いたこと、自分たちの生活とのつながりなど興味深い内容が発表されます」と今野教頭。
一方、「地域学」開設の経緯については、国立教育政策研究所の教育課程研究指定校事業の指定を受けたことが大きいという。「同校では総合学習などの時間でアイヌ文化について学ぶ機会を設けてきましたが、郷土への愛着や伝統文化への畏敬の念を育む授業の実践という点は課題があったことも事実です。そのため、平成29年度から『ふるさとへの誇りを持つ、地域を育む』という思いをもって研究事業に取り組みました。また、2020年に白老町にオープンする国立アイヌ博物館も『地域学」開設の大きな要因でした」(今野教頭)という。
同研究所の研究事業は2年間の限定的なものだったが、同校の研究事業は、その後の北海道教育委員会(道教委)主催の「高等学校OPENプロジェクト」に引き継がれ、現在は3年目に当たる。
新しい発見に喜びを表す生徒たち
これまでの生徒の参加状況を見ると、同科目を選択した生徒数は1年目(平成30年度)が4人、令和元年度が24人、2年度が28人と増加傾向にある。授業を受ける生徒たちの感想も「(アイヌ語の学習では)カムイや熊送りの儀式などについて学んだが、アイヌ文化には神が多く、多神教寄りなところがあるのでもっと学んでみたい」、「(木彫り体験では)文様一つひとつに意味があり、さまざまな文様を合わせて一つの意味にしているところが興味深い」といったものから、「喜びや悲しみを身体で表現するアイヌ舞踊は自分たちが楽しむだけでなく、神々や先祖に対して敬意や謝意を捧げる表現であることを知った」など地域学を通して新しい発見に喜んでいる様子。今年度は新型コロナウイルスで授業が遅れたものの、ビデオ映像を作成しながら地域学への記録づくりに挑戦する。
ところで、道教委では現在、北海道の地域創生の源となる基幹産業の担い手や地域を守り支える人材育成に向けて3年間の企画(平成30年度~令和2年度)として「北海道ふるさと・みらい創生推進事業」を進めているが、「高等学校OPENプロジェクト」はその一つの事業。現在、道内15校の指定校と4校の奨励校が地域創生を目指して探求的な学びの実践に取り組んでいる。






