野生動物市場の問題、次のウイルスも狙っている

山田 寛

 

 先週の世界保健機関(WHO)年次総会。習近平・中国国家主席は、新型コロナ感染拡大責任問題で“中国WHOタッグチーム”を激しく非難する米国に対し、中国の感染対応を自賛した。国際調査・検証をOKし、世界の感染対策への巨額援助も約束し、善意を強調した。習氏の辞書には「謝罪」や「恐縮」の語はなく、「攻撃は最大の防御」の格言だけが沢山ある様だ。

 武漢の研究所関係者がまず感染したか、研究所からコウモリが生鮮市場に流れたか、あくまで市場が起源なのか。中国は、研究所への強い疑念を示したポンペオ米国務長官を罵倒するが、反論の具体的根拠は示さない。

 3月初め、習氏は発生源を徹底調査すると明言した。国際検証は不可欠だが、当面自国調査状況を少しでも報告すべきではないか。“不都合な真実”があるのだろうか。

 前回のこの欄で研究所と生物兵器の問題を書いた。今回は生鮮市場と野生動物売買の問題を取り上げたい。

 4月、世界の約240の野生保護団体が、WHOに世界各地の野生動物生鮮市場の封鎖を強く訴えた。メディアでも「ストップ野生動物売買」の声が広がっている。英インディペンデントの様に大キャンペーンを展開中のメディアもある。

 何しろ国連の専門家によれば、世界の感染病の75%が動物由来でその大半は野生動物による。SARS(重症急性呼吸器症候群)もMERS(中東呼吸器症候群)も鳥インフルエンザもジカ熱も、エイズもエボラ出血熱もそうだという。

 野生動物消費の中心はもちろん、その料理と漢方薬の大国、中国で、今回の“犯人”とされるコウモリをはじめ、54種類が売買されてきた。年商約1000億㌦で100万人が従事する産業というのである。

 野生動物も売る生鮮市場では、動物を入れた小さな檻(おり)や籠がぎっしり積み上げられ、客の前で排泄(はいせつ)物にまみれた動物を引き出し、処理する。血が床に流れる。他の鮮魚や食肉とも近い。ウイルスも容易に拡散する。

 2月下旬、中国政府は国内での野生動物売買を禁止すると発表した。だが政府推奨の「中華文明の宝」である漢方薬や、ペットのための売買は禁じていない様だ。

 それが抜け道となり、食用に回ることも十分考えられる。それでなくても、地方政府がどれだけこの禁止令を厳密に実施できるか分からない。2002~03年のSARSの後も、中国政府は同様の禁止を通達したが、あまり効果はなかった。一大産業だし、中国人の食生活に入り込んでいるのだから。

 食文化は尊重されるべきだ。日本人も、クジラやイルカを食べる野蛮人などと言われると反発したい。だが、今回これだけ世界に病気を広げる源となったら、問題の次元が違う。

 中国はくり返し感染症発生源になってきたし、習氏は食文化、漢方薬文化の結果責任も含めて、少しは恐縮して見せてもよい。

 野生動物売買市場は、東南アジア、アフリカ、中南米などにも広く存在する。

 野生動物に関しては、自然破壊の問題も指摘されている。開発、森林伐採の加速で居場所が狭められ、より人間の居住地近くにも生息するようになった。野生動物の身体、分泌物に人間が接しやすくなり、ウイルスも変異を起こし人体で病原体になる。その機会を人間が増やしているというのだ。

 今のコロナが収束しても、次のウイルスが機会をうかがっている。まずは野生動物市場問題で最低限、衛生管理を大幅に改善しなければならない。WHOも中国に忖度(そんたく)せず、自分たちには強制力がないなどと言わず、断固問題に取り組むべきと思う。

(元嘉悦大学教授)