ICT駆使した遠隔授業の研究開発が進む北海道

来年度から北海道高等学校遠隔授業配信センターを設置へ

 広大な面積を有する北海道にも人口減少の波は否(いや)応なく押し寄せている。そうした中で北海道教育委員会はこれまで、小規模校や離島の高校の教育水準向上を図ると同時に地方から都市部への若者流出を食い止めるためICT(情報通信技術)を駆使した遠隔授業の研究開発に取り組んできた。来年度からは北海道高等学校遠隔授業配信センター(仮称)を設置し、本格的な授業を進めるなど全国に先駆けて行う遠隔授業の内容を探ってみた。(札幌支局・湯朝 肇)


生徒の大学進学や将来の夢の実現へ向け学校環境を整備

 「離島や地方で高校に通う子供たちが大学進学や将来の夢や希望をかなえることのできる学校環境を充実させたい。ICTを使った遠隔授業は、極めて有効なツールになると思います」――こう語るのは、北海道教育庁学校教育局教育環境支援課遠隔授業準備室の佐藤一昭課長補佐。

ICT駆使した遠隔授業の研究開発が進む北海道

長年にわたって研究開発を続けてきた道教委による遠隔授業の風景=平成29年3月21日、北海道立函館中部高校

 遠隔授業とは配信校と受信校において映像や音声をライブ通信するなど遠隔システムを活用して行う授業のこと。道教委では来年度(令和3年度)から札幌市内の北海道有朋高校内に北海道高等学校遠隔授業配信センターを設置し、道内の小規模な高校や離島の高校を対象として遠隔授業をライブ配信する。

 具体的には受信する各高校が「配信科目一覧」から教科・科目を前年度にあらかじめ選択して遠隔授業を受ける。主に習熟度別授業として国語や英語、数学の3教科、選択授業として理科(物理、化学、地学)、地理歴史・公民の科目が配信される。

 また、生徒の多様な興味・関心に応えるために書道、音楽、美術といった芸術科目も用意されるという。対象校は現在、道内各地の地域連携特例校24校と離島2校の計26校としている。ちなみに北海道では、高校が地域で果たしている役割を踏まえ、1学年1学級の高校のうち、地理的状況などから再編が困難、かつ地元からの進学率が高い高校を地域連携特例校として位置付けている。

進路別や習熟度別の細かな指導で学力の向上が可能に

 同センターの設置のメリットについて佐藤課長補佐は「タブレットPCなどICTを活用した遠隔授業を行うことで受信側の高校に免許所有者のいない教科であっても単位認定が可能になり、免許所持の有無に制約されない教育課程の編成を実現することができる」と語る。遠隔授業で進路別や習熟度別の授業に取り組むことによってきめ細かな指導が可能になり、生徒の学力向上を図ることが可能になるという。さらに「進学希望の生徒は、都市部に行かずに地域で授業を受けることができ、地域への愛着心が培われ、地域活性化につながる」とも述べる。

 センター設置に至るまで北海道の遠隔授業には10年以上の道のりがある。道教委による遠隔授業への取り組みが始まったのは平成20年度のこと。当時は遠隔地にある高校と地域のセンター校との間でセンター校の教師が出向いて行う出張授業の形を取り、遠隔授業は補完的な役割を担っていた。

 その後、25年度に文部科学省の委託を受け、指定校において、遠隔システムを利用した授業科目における単位認定の在り方や指導方法について研究開発を進め、27年度の一定条件下の遠隔授業における単位認定の制度化に寄与した。29年度からは指定校を研究開発学校(9校)、研究協力校(3校)に増やし、配信科目も6教科11科目として、遠隔授業の配信に向けた組織体制の在り方について研究を進めている。また機材の充実を図るなどハード面での取り組みも進化させていった。

 学識者による定期的に開く研究開発学校運営指導委員会では、「生徒の学習スタイルについて、見る・考える・実行する・感じるの四つある。見る・考えるは遠隔授業で実現しやすい学習スタイルかもしれないが、実行する・感じるは対面授業でないと実現しない学習スタイルである。

 一人ひとりに合わせた個に応じた学習スタイルができることが大切であり、学習スタイルの側面での分析や検証がさらに求められる」(令和2年1月開催)といった意見も出るなど、活発な議論が繰り広げられた。こうした歩みを踏まえ、来年度から配信校が一元化され北海道高等学校遠隔授業配信センターとしてスタートすることになる。