製造業の生産拠点国内回帰図る、日本の「脱中国」 世界が注視

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 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍政権が製造業の生産拠点を中国から国内に回帰させる取り組みを始めたことが、海外から注目されている。米国でも既に、中国を世界のサプライチェーン(部品供給網)から切り離す「デカップリング論」が浮上していたが、コロナ危機に端を発した日本の「脱中国」の動きは、その流れを勢いづかせる可能性がある。(編集委員・早川俊行)

 日本に続け――。

安倍晋三首相(左)と習近平国家主席

昨年12月に開催された日中首脳会談前に握手する安倍晋三首相(左)と中国の習近平国家主席=北京の人民大会堂(時事)

 安倍政権が緊急経済対策に2435億円のサプライチェーン再編支援策を盛り込んだことに対し、米国の有力議員からこんな声が相次いだ。

 共和党の若手ホープ、ジョシュ・ホーリー上院議員はツイッターで、このニュースを伝える記事を引用して「米国も同じことをすべきだ」と主張。トランプ大統領に近いトム・コットン上院議員も「世界が中国に反旗を翻しており、この動きは増えていくだろう」と予想した。

 安倍首相は先月5日、自らが議長を務める政府の未来投資会議で、「一国への依存度が高い製品で付加価値が高いものについてはわが国への生産拠点の回帰を図る」と表明した。コロナ危機でマスクや自動車部品の供給が滞ったことは、生産拠点を中国に一極集中させるリスクを浮き彫りにしたためだ。

 緊急経済対策に盛り込まれたサプライチェーン再編支援策では、生産拠点を中国から国内に回帰させる企業に計2200億円、東南アジアなど第三国に分散させる企業に計235億円を提供し、移転費用を補助していく。

 実際に「脱中国」を進めるのは容易でないが、安倍政権の取り組みを「成功する可能性がある」と分析するのは、米シンクタンク、ハドソン研究所のジョン・リー上級研究員だ。

 リー氏は、アジア太平洋地域の外交・安全保障専門サイト「ディプロマット」で、ロボットや人工知能(AI)など「製造業の急速な技術的進歩」により、人口が減少する日本でも生産拠点を戻すことが可能になりつつあると指摘。また、「中国は緊張する対米関係への対応で手いっぱいだ。日本が中国から経済的に距離を置こうとする試みに構う余裕はない」とし、「脱中国」を進めやすい政治環境にあるとの見方を示した。

 米国でも中国中心のサプライチェーンに懸念が広がっているが、その危険性を強く認識させたのが医薬品だ。コロナ危機で医薬品確保の重要性が高まっているが、米国は抗生物質の8割以上を中国企業から輸入するなど、医薬品を中国に依存してしまっている。

 これは、米国民の生命や健康を中国共産党に握られてしまっているに等しい。特に、中国国営新華社通信が先月、「中国が医薬品輸出を禁止すれば、米国はコロナ地獄に陥る」と脅したことで、米国の危機感は一気に高まった。

 在中国米商工会議所が米大手25社に行った調査によると、デカップリングは不可能と答えた企業は、昨年10月時点では66%に上っていた。ところが、今年3月の調査では、その割合は44%に低下。コロナ危機でチャイナ・リスクを実感した企業が増えたことを物語っている。

 この調査結果を報じた米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの記事は、日本のサプライチェーン再編支援についても言及しており、日本の動きは海外の注目を集めている。

 「米国を含め他の国々も日本にならうだろう」。米国のベテラン中国ウオッチャー、スティーブン・モッシャー人口調査研究所所長も最近、米紙への寄稿でこう予想した。コロナ危機をめぐり中国に対する怨嗟(えんさ)の声が世界中で渦巻いているだけに、日本の取り組みは「脱中国」の一つのモデルになる可能性がある。