新設「宇宙作戦隊」その任務、不審衛星や宇宙ゴミ監視
防衛省は今年度、「宇宙作戦隊」を新設する。従来の陸海空を越えた新領域、宇宙でどのような任務に当たるのか、専門家はどう見ているか、宇宙空間の現状を踏まえ関係者に取材した。
(社会部・川瀬裕也)
中・露の脅威増大に対応 課題は予算規模
今年度「宇宙作戦隊」を新設する組織改編を盛り込んだ改正防衛省設置法が17日、参院本会議で可決、成立した。同隊は府中基地(東京都)の航空自衛隊内に20人規模で新編される。防衛省は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や、米宇宙軍との連携なども調整しながら、令和4年度に100人規模での実働を目指して準備を進めている。
「宇宙作戦隊」と聞くと宇宙空間での戦闘のための部隊というイメージが強い。しかし、防衛省関係者によると「(隊員は)宇宙に出て行くわけではなく、地上で宇宙状況監視任務に当たる」のだという。
現在、日本を含め多くの国がさまざまな人工衛星を利用して通信、偵察、早期警戒などを行っている。また軍事面だけでなく、測位衛星を利用した位置情報システム(GPS)や、気象衛星による天気予報などは、われわれの日常生活に欠かせないものとなっている。
その一方で近年、各国の対衛星兵器(ASAT)関連の技術が飛躍的に高まっている。中国は2007年に地上発射ミサイルによる衛星破壊実験を行っており、14年にはロシアが衛星通信妨害能力を有するジャミング装置「R-330ZH」をクリミアで使用するなど、宇宙空間の危険性は増す一方だ。さらに宇宙ゴミ(スペースデブリ)と呼ばれる、壊れた衛星やその破片なども急速に増加しており、それらの危険から衛星を守ることが急務となっている。
「衛星周辺の監視を強化し、宇宙ゴミや他国の不審な衛星などの攻撃から守る体制を整備することが、一番重要な任務となる」と前出の防衛省関係者は語る。
宇宙政策に詳しい慶応大の青木節子教授によると、標的とする仮想敵国の軍事衛星と同一軌道に入り、数カ月間監視を続けて標的衛星の性能を見極める「ストーカー衛星」の活動も近年活発になっているという。
青木教授はストーカー衛星について「他国の衛星を破壊するわけではなく、単に近接してその性能を確認した後離れていくというだけでは現行国際法違反とはならない」と問題点を指摘。中長期的には、衛星の国際的な行動規範を作ることが必要とした上で、「現状は自国の衛星が不審な追尾をされている場合には外交ルートを用いた抗議を行い、それで不十分であれば、何らかの合法な報復措置を取ることによって自国の安全保障を守るしかない」と同隊新編の重要性を説明した。
また、宇宙作戦隊に期待されるのは「日本の防衛上特に重要な衛星に対する不審な行為と、その行為を行う国を確実に認定する能力を保有すること」だとし、そのために「自衛隊が守るべき衛星が主としてサイバー攻撃により機能的な破壊を被る可能性に備えて、サイバー防衛隊との連携も重要となる」と強調した。
各国の宇宙分野への力の入れ方を見てみると、昨年宇宙軍を発足させた米国は、昨年度(19年10月~20年9月)予算の中で宇宙関連費用に前年比15%増の141億㌦(約1兆5651億円)を計上。近年宇宙予算が大幅な増加傾向にあるロシアは「13年~20年までのロシア連邦宇宙プログラム」(12年承認)の中で、予算約1810億ルーブル(約5430億円)を拠出した。中国は予算非公開としているが、約2000億円との情報もある。
防衛省は令和2年度予算で、宇宙関連経費として総額506億円を計上しているが、主要各国と比べるとまだまだ少ないと言える。今後さらに加速していく宇宙競争にどう対応していくかが注目される。