米大統領選の民主党候補、穏健かつカリスマ性が必要

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アメリカン大学教授 ジェームズ・サーバー氏

 来月3日のアイオワ州の党員集会を皮切りに、米大統領選の選挙戦が本格化する。米国の選挙事情に詳しいアメリカン大学のジェームズ・サーバー教授に今後の見通しを聞いた。(聞き手=ワシントン・山崎洋介)

ジェームズ・サーバー氏

 James A. Thurber 1979年から2016年まで、アメリカン大学議会・大統領研究センターの所長を務めた。現在、同大の特別栄誉教授。選挙や議会、利益団体のロビー活動に関する多数の著書があり、これまで40カ国の100を超える大学で講義を行ってきた。

トランプ大統領は再選に向けどういう戦略を立てているか。

 前回大統領選でトランプ氏は、過激な言動で注目を集めるメディア戦術を用いた。広告費に換算すると30億㌦分もメディアに露出していたとされる。今回もツイッターなどで物議を醸す発言を繰り返し、議論を呼び起こしている。また、大量の広告資金を投じる空中戦のほか、大規模な集会を開いて支持者を動員し、組織化することで地域に密着した地上戦にも力を入れている。

トランプ支持層が強固な理由は。

 トランプ氏の支持層は、政府の役人たちがトランプ氏に対抗していると感じている。こうしたワシントンのエリートは助けにならなかったが、トランプ氏は気に掛けてくれたと感じている。だから、トランプ氏を支持することを固く決め込んでおり、トランプ氏が攻撃を受けるほどより一層支えるようになる。

民主党は、中間選挙で、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン州などの「ラストベルト」(さび付いた工業地帯)で良い結果を出した。

 これは、非常に重要だ。中間選挙やその後の補選で、民主党は、穏健な共和党支持層や無党派層の女性を取り込むことで、大都市郊外で勝利した。こうした有権者はトランプ氏の言動への不快感が強く、今年の選挙でも民主党にとって狙いどころとなる。

バイデン元副大統領のような穏健派が民主党の指名を獲得した場合、急進左派は本選挙で同氏を支持するか。

 前回、クリントン氏がペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン各州を合計約7万8千票の僅差で落としたが、その時、二大政党以外の「第三の党」へは3州の合計で200万~300万票が投じられた。民主党予備選でサンダース氏に投票した人が本選挙で民主党から多数離反したと考えられる。今回、穏健派候補を急進左派が支持するかどうかは、接戦州における結果を左右するだろう。

急進左派のサンダース、ウォーレン両上院議員が指名候補となった場合、本選挙でトランプ氏に勝つ見込みは。

 両氏が指名候補となった場合、黒人の投票率が高い水準にはならないことが予想される。クリントン候補が出馬した前回は、オバマ前大統領の時代と比べ黒人の投票率が8%程度、下がった。今回も同様の投票率であれば、恐らくトランプ氏が勝利するだろう。

トランプ氏再選の可能性はどの程度か。

 トランプ氏は非常にタフだ。ツイッターを用いて他候補を厳しくこき下ろすなど、他の候補と同じ規範、価値観、倫理観を持たない。これに対し、民主党は穏健でカリスマ性があり、刺激的な候補者が必要だが、今のところ見当たらない。結果を予測するには、誰が指名獲得するか見届ける必要がある。

「地上戦」軽視の前NY市長に疑問

民主党内で急進左派が台頭する理由は。

 多くは富の分配が機能していないことに関連している。経済発展から取り残された人たちが、健康保険などの社会保障を充実させることを必要としている。トランプ氏の支持者と共通点はあるが、急進左派の支持者たちは、より政府が問題を解決することを期待している。ただ、活動家と比べ一般の民主党支持者はより穏健な人が多い。今後、民主党がどちらの路線に進むか見極めるにはもう少し時間かかる。

中道派のブルームバーグ前ニューヨーク市長の参戦が、民主党予備選に与える影響は。

 ブルームバーグ氏の戦術は、予備選序盤の州に参戦せず、予備選が集中する3月初旬の「スーパーチューズデー」から活動を開始するというものだ。同氏は、テレビCMなどによる空中戦を大々的に展開するが、地上戦も必要だ。地上戦なしに勝利できると思っているとすれば疑問だ。前回大統領選で、クリントン候補は、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン州などから人員や資金を引き揚げたことで、これらの州を落とすことになった。バイデン氏ら中道派から票を奪うことが考えられるが、現時点でブルームバーグ氏自身が指名を獲得するとは見ていない。

あなたは2016年の著書で米政治の分極化について指摘した。それはさらに進んでいるか。

 米政治の分極化は深まり続けているが、その原因はさまざまだ。第一にリベラルな都市部と保守的な地方で価値観の違いが強まっている。第二に銃規制、同性愛者の権利など社会的な問題で意見の対立が先鋭化している。第三に大きな政府か小さな政府のどちらを目指すべきかで世論が分かれている。

 弾劾も分極化の要因となっている。民主党支持層の多くがトランプ氏を弾劾すべきだと考えているが、共和党支持層の多くは反対している。弾劾をめぐる分断は大統領選にも影響を与えるだろう。

弾劾は大統領選にどう影響を与えるか。

 もともと共和党を支持していたが、共和党支持から民主党寄りに傾く大都市郊外の女性が弾劾を受け、どう動くかが注目される。一方、保守層はトランプ氏への弾劾に憤慨しており、それが支持層を活気づかせている。これらが結果を左右するかは、現時点ではまだ分からない。