天然ガスパイプライン「シベリアの力」稼働、中露接近を促進
ロシアから中国へ天然ガスを供給するパイプライン「シベリアの力」が2日、稼働した。ウクライナ危機を発端に欧米諸国の経済制裁と原油安で辛酸を嘗(な)めるロシアと、大気汚染対策に石炭から天然ガスへのエネルギー転換を急ぐ中国の思惑が一致するなど両国の戦略的協力は今後も深まりそうだ。
(デジタルメディア編集部・桑原孝仁)
エネルギー分野で戦略的連携深まる
両国間で天然ガスパイプラインが繋(つな)がるのはこれが初となる。ユーラシア大陸を東西に占める中露がエネルギー事業で協調したことに、欧米メディアは驚きを隠さない。CNNテレビ(3日付電子版)は「両国間の緊密な経済的、政治的関係をますます強める」と指摘し、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(2日付電子版)は、「米国に別々に挑む二つの大国の協力」と伝えている。
習近平国家主席とプーチン大統領は2日、北京で開かれた稼働記念式典にテレビ中継で参加した。習氏は「今や、中露は国家の発展において重要な時期にある。両国関係は新しい時代に入りつつある」と強調した。プーチン氏も「エネルギー部門における中露間の戦略的提携を新たなレベルに押し上げる」と述べ、戦略的な結び付きをアピールした。
「シベリアの力」はロシアの東シベリアに位置するチャヤンダ・ガス田とコビクタ・ガス田から産出される天然ガスを、中露国境付近の都市ブラゴヴェシチェンスクまで供給する。ロシア国営天然ガス独占企業ガスプロムの発表によると、建設費は550億㌦(約6兆円)に上る。全長はロシア国内だけで約3000㌔にまで及ぶ長大なパイプラインだ。中露の国境を跨(また)ぎ黒竜江省黒河市にある施設を通じて中国内の既存のパイプラインに繋げ、最終的に上海まで引くことで、総距離はその倍近くの長さになる見込みだ。
2014年5月にガスプロムと中国の国有企業中国石油天然気集団(CNPC)は、ロシア産出の天然ガスを30年間にわたって中国へ供給する契約をまとめた。年間380億立方㍍の供給を見込んでいる。当時訪中したプーチン大統領と習主席が契約文書に調印した。
中国は大気汚染の改善を強く進めており、天然ガスのニーズがある。習氏が中国共産党総書記に就任する前年の11年まで、中国はエネルギー消費の7割以上を石炭が占めた。都市部では大気汚染が深刻化していた。
習氏は環境規制の厳格化を進め、天然ガスへの移行を急いでいる。中国統計年鑑18年版によれば、石炭が国内のエネルギー消費全体に占める割合が11年に70・2%だったのが17年には60・4%まで減少し、対して天然ガスは11年4・6%だったのが17年には7・0%まで増加。中国政府は20年までには10%に増加することを目指している。
対してロシアはこのパイプラインを通してエネルギーの欧州市場依存を減らすことを狙う。ウクライナ危機で経済制裁を課されると同時に国際市場の原油安が重なり、国内経済は悪化した。また米国がここ数年間石油・天然ガスの生産量を押し上げ、欧州へ供給するように働き掛けてきた。これまで欧州向けがほとんどのロシアの天然ガス輸出を、米国が妨げる構図だ。欧州に米国産へと乗り換えるような動きが続けば、ロシアは中国と結ばざるを得ない。中央アジア・コーカサス研究所所長の田中哲二氏は「安定した天然ガスの消費地でパイプラインを通して売れる中国に天然ガスのウエートを高めていくというのは、ロシアのエネルギー戦略にとって安定材料になる」と語る。さらに「政治的にも中露は蜜月をより強化して、トランプ米大統領からの圧力に共同して対抗していく」と見通した。
米ブルームバーグ通信の記事(11月25日付電子版)によれば中露は既に別ルートを使った天然ガスパイプライン第2の「シベリアの力」の計画の話を進めているという。
パイプラインを通して中露の戦略的協調関係は深まりつつある。田中氏は「米国は中露関係を読み間違った可能性はある」として米国の中露切り離し失敗を指摘する。中ソ対立は冷戦時代の過去となり、対抗する欧米諸国の今後の動きに影響することは間違いない。