中間選挙後の米政治

インタビューfocus

共和・民主の対立激化も

笹川平和財団上席研究員 渡部恒雄氏

 米中間選挙の結果、民主党が下院で多数派を握ったが、上院は共和党が過半数を維持した。米政治に詳しい笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員に今後のトランプ政権の行方を聞いた。(聞き手=岩城喜之)

渡部恒雄氏

 わたなべ・つねお 昭和38年生まれ。東北大歯学部卒。平成7年、ニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチ政治学修士。戦略国際問題研究所上級研究員。三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員を経て現在、笹川平和財団上席研究員。著書に『二〇二五年米中逆転』など。

トランプ米大統領は中間選挙について「ほぼ完全勝利だ」と言っているが、この結果をどう受け止めたか。

 トランプ氏は選挙後に超党派で協力しようと言ったが、民主党が自分の税務申告の提出を要求したり、ロシアゲート関連の調査をするようだったら、上院で議会の機密漏洩(ろうえい)疑惑を調査するぞと脅している。なぜそうした言い方だったのか考えると、やはり言葉とは裏腹に、勝利していないと感じているからだ。

 だから、超党派の協力は進まない可能性がある。そうなると、今後は対決的な議会運営になり、立法も滞る。その場合は、オバマ前大統領のように大統領令を出すしかない。その内容は保守派が喜ぶものが多くなり、ますます民主党が反発するため、対立が激化する道筋が考えられる。

 またトランプ氏は、予算が通らなければ政府機関閉鎖(ガバメント・シャットダウン)も辞さない考えだ。しかも、そうなった責任は民主党にあると言うだろう。民主党もそれは織り込み済みだから、受けて立とうとするのではないか。

政府機関閉鎖した場合に、国民は民主党の責任だと思うのか。

 民主党支持者はトランプ氏のせいだと思って、共和党支持者は民主党のせいだと感じるだろう。今後は駆け引きになるが、今までは共和党議会とトランプ政権が民主党議会に対して強いポジションにあったが、下院を取られたことで、民主党側が相対的にバーゲニング・パワー(交渉力・対抗力)を持つようになる。これが今回の中間選挙の結果だ。

中間選挙でブルーウエーブ(民主党旋風)は起きたのか。

 民主党の動員はかなり増えたが、あくまでもリベラル派の中でのウエーブであって、それが津波になるほどではない。共和党側にも食い込むほどだったかと言えば、そうではなかった。

「米国第一」主義の方向性は変わらないのか。

 変える気はないだろう。むしろトランプ氏のやり方は、民主党支持層や無党派層を取り込むのではなく、共和党に忠誠を誓わせて、その動員を上げることだ。現にそれで失敗しておらず、上院は着実に過半数を維持した。支持層を大事にしておけば、民主党が弾劾の訴追をしたとしても、有罪判決には持ち込めない。だから共和党をしっかりと取り込むのがトランプ氏の戦術だ。

民主党は下院で弾劾の訴追に動くのか。

 それは分からない。民主党内で意見がそろわない段階で弾劾にかけようとして、挫折させるようなことはしない。必要な情報を少しずつ集めて、トランプ政権に圧力をかける狙いだろう。それで民主党の支持が持つかどうかが、これまでのポイントだったが、今回の中間選挙で民主党は手応えを感じており、反トランプで動いた方が、自分たちの支持は維持できると思っている。

 ただ、仮にトランプ氏の首を取れたとしても、次は副大統領のペンス氏が大統領になる。それは民主党にとって2年後の大統領選戦略にプラスではないため、トランプ氏の方がいいとの計算もある。だから、すぐに訴追に動かないことが、民主党内の合意ではないだろうか。

再選が最優先のトランプ氏

トランプ氏再選の可能性は。

 経済や弾劾の進み方にもよるが、共和党の80%以上を支持基盤として持っている以上、トランプ氏が再選する可能性は十分ある。

 ただ、今回の中間選挙で再選に黄色信号が灯(とも)ったと言える。なぜなら、2年前の大統領選で勝利したウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア、オハイオの「ラストベルト」(さび付いた工業地帯)4州で、民主党が上院を全て勝ったからだ。2年後の大統領選で、それらの州を勝てない限りは、再選はおぼつかない。

トランプ政権の対中強硬姿勢は変わらないのか。

 これは難しくて、トランプ氏の考えは再選が最優先だ。対中強硬姿勢はペンス副大統領、マティス国防長官、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表、ナバロ米大統領補佐官(通商製造業政策担当)の思惑が一致したもので、戦略的な合意だ。トランプ氏も中国に圧力をかけて貿易赤字を減らしたいと思っているが、戦略的合意があるかは分からない。

 中国は圧力に屈したふりをして、ディール(取引)を持ち掛けるかもしれない。トランプ氏は景気の悪化を望んでいないため、経済にプラスになると思えば乗る可能性はある。

日本の国益を考えた場合、トランプ政権とどのように関わっていけばいいか。

 日本の国益を考えると、どのような政権でも米国とうまくやっていくだけだ。安倍晋三首相は、どんな大統領でも米国は米国だとよく分かっている。米大統領との関係を維持しなければ、北朝鮮や中国の高圧的姿勢を招いて、自分たちの安全保障に悪い影響があるからだ。トランプ氏が気に入らないからといって米国との関係を遠ざけることは、ばかげた話だ。日本は米国との関係を良好にするしかない。