ロシアの戦略目標、米民主主義への不信を助長
F・ブリードラブ元欧州連合軍最高司令官
今回の大統領選は国内に分断を招いたが、ロシアとの関係についてしっかりした議論が行われるという、いい点もあった。
言うまでもなく、ロシアのプーチン大統領をよく見て、常識と豊富な情報をもとに議論すれば、ロシアは米国の選挙結果を左右しようとしたのではないかという結論に行き着く。
一部で言われているように、プーチン大統領が、米国の新大統領に自分に似たものを見いだしたからとか、前任者よりも御しやすいと考えたから、トランプ氏に新たなパートナーになってほしかったのではないかと考えることは可能だ。
しかし、選挙へのロシアの干渉ばかりに集中したため、本来注意を払うべきことを見逃してしまう危険性がある。米国が戦術レベルのことばかりに集中する一方で、ロシアは攻撃的で、長期的な戦略レベルの目標に目を向けているからだ。
ロシアの選挙干渉から分かることの第一は、プーチン大統領がこれまでよりも大胆に、自由に活動していることだ。ウクライナへの侵攻と占領は、国際法と合意された規範への露骨な違反だが、制裁への懸念はロシアにはなかったようだ。米国の選挙への干渉も、制裁を受けることはないという前提があって行われた。
第二は、米国内での対立をあおること。その一方で、ロシアは、米国の強い民主主義の伝統に対する米国と世界の確信を、少しずつ揺るがせるための活動を続けている。ロシアは巧みなごまかしには長(た)けている。シリアへの軍事介入は、ウクライナの違法な占領から世界の注意をそらすことが一つの目的だった。形は違うが、これもウクライナが原因だ。
第三は、これまでの中で一番重要で、今のロシアは米国の戦略的パートナーではないということが確認できたことだ。ロシアは、米国との関係をゼロサムと考え、自国を強化する最良の方法は米国を貶めることだと思っている。ロシアは単に国際秩序のルールを破ろうとしたわけではなく、ルールを書き換えたかったのだ。ロシアは自国を大国と思っている。世界の舞台で起きることを変える力があると思っている。その考えを裏付け、実行するためなら軍事力の行使もいとわない。
「一体、自由、平和」で、さらに言えば「繁栄した」欧州は、欧州諸国の安全で安定した統治、国民の繁栄、機会、幸福の実現に必要だ。米国にとってもそうであり、ロシアにとっても突き詰めればそうだ。これが、われわれが協力して取り組むべき共通の目標だ。
残念ながら、近道はない。受け入れ可能で、持続可能な関係を今後築くための基礎となる重要な合意もない。
この理想に向かって進む最善で、唯一の道は対話だ。過去の罪を隠すことなく、将来のさまざまな面での実務的な協力への扉を開くために、率直に話し合うことだ。
ロシアの世界観を、意見はさまざまあろうが、受け入れる必要がある。その上で、一致して取り組む具体的で、意味のある、目に見える目標を見つけ出すべきだ。
ロシアは世界の舞台で建設的なプレーヤーとなり得る。米国と同盟国はそれを促し、歓迎すべきだ。
(ワシントン・タイムズ特約)
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