デジタル兵器、小さなエラー挿入で無力化も

米軍再建への課題-元上級将校の提言(3)

A・ホール陸軍サイバー研究所所長

 2002年、韓国、昇格したばかりの少尉は、自身が率いる大隊の初めての実弾訓練があっという間に大混乱となる光景を目の当たりにした。

A・ホール

 アンドリュー・O・ホール 陸軍大佐。ウェストポイント陸軍士官学校の陸軍サイバー研究所所長。ウェストポイント卒業。メリーランド大学で博士号取得。

 大隊の18基の機関砲のうちの1基が火器管制センターに接続されていなかった。実際の戦闘でなら大変な失態だ。

 兵員、下士官らが1時間以上、原因を突き止めようと奮闘したが分からず、待っていた指揮官らのいらいらが募っていった。

 待ちくたびれた少尉がとうとう、自分で見てみようと思った。

 兵員らで混雑した部屋に入っていくと、すぐに、身の回りにいる何十年もの経験を積んできた兵員らに比べて、自身がほとんど何も知らないことが分かる。ところが、不慣れであることが幸いしてか、小さなミスに気が付いた。火器管制コンピューターに間違ったデータが入力されていた。

 管理者がミスを修正すると、システムは正常に作動し、訓練は再開された。

 この逸話は、部下の将校が話してくれたもので、一つの基本的な事実を示している。サイバー技術も、他の技術同様、最終的には人だということだ。

 当時、防衛システムはコンピューターとデジタルネットワークへの依存を強めていた。しかし、敵が兵器システムに、間違った日付など、ほんのささいな誤情報を意図的に入れる可能性があることを考える兵士はまずいなかった。その上、そのようなミスを発見することはほとんど不可能だと考えられていた。

 現在、戦車、榴弾(りゅうだん)砲、ヘリコプターばかりか、物資の輸送管理や配送システムでさえ、デジタル化、ネットワーク化が進んでいる。米兵らが、そのような事態に備えなければならないのは言うまでもない。

 この技術は、戦場で非常に効果的だ。指揮官らにとっては、兵士と敵がどこにいるかが分かりやすくなり、教会、病院、学校など戦闘を回避すべき場所も把握しやすくなる。コンピューターによって、兵器を早く、正確に発射できるようになり、敵を破壊する能力が向上する一方で、二次被害を避け、民間人保護を強化できるようになった。デジタル化で、兵士に食糧、燃料、弾薬を早く正確に届けられるようになり、必要な在庫量を減らし、補給物資輸送の車列を短くできる。

 素晴らしい可能性を持つ技術だが、予想困難な脆弱(ぜいじゃく)性も備えている。敵勢力がシステムや能力を、想定されていなかった方法で破壊する可能性がある。戦場で戦車を破壊する唯一の方法は、物理的力でそれに対抗するしかなかったが、現在では、システムのナビゲーションコンピューターや火器管制システムに小さなエラーを入れることで、無力化できる。

 陸軍サイバー軍、ウェストポイント陸軍士官学校の陸軍サイバー研究所、陸軍サイバー中核的研究拠点は、攻撃的、防衛的サイバー作戦に特化したサイバー即応部隊の設置作業を開始した。

41のサイバー部隊を設置

 陸軍は、関連機関とともに、人材など重要な資源を提供している。ネットワークを確立、維持、防衛するには、スキルを身に付けた数多くの人材が必要になる。陸軍はわずか数年で、サイバー兵のための専門技術分野を設け、軍人、民間人問わず、高い水準のサイバー作戦の訓練を数百人に施し、サイバー空間で活動し、米国を防衛する41のサイバー任務部隊を設置し、サイバー作戦を従来の地上戦戦略の中に統合した。

 現在、必要なスキルを持ったサイバー要員の募集、教育、訓練の方法について見直しを進めている。これは、技術に関するスキルであり、欠くことができず、創造性を必要とする。例を挙げると、陸軍のサイバー・リーダー養成計画では教育や訓練に加えて、ウェストポイントとROTC(予備役将校訓練課程)の士官候補生に、教室外での絶好の機会を提供している。それによって、米軍のシステムを運用、維持し、複雑な敵の攻撃も理解した陸軍サイバー部隊が生まれる。

 新たな人材以外にも、陸軍全体で変革に取り掛かっている。ほんの数年前まで、兵士が使用する車両の整備にはチェックリストだけあればよかった。今では、デジタルシステムのチェックという大変な作業も行わねばならず、敵が味方を無力化するためにどのような手段を取り得るかを理解しておく必要がある。この兵士らを、さまざまな分野を包括的に担当するチームが支援する。このチームは、必要があれば調査を行い、新たな脅威、脆弱(ぜいじゃく)性について陸軍に報告する。

 この取り組みをリードするのは、陸軍サイバー研究所だ。この研究所を設立するために、戦術に関する包括的な知識を持つ陸軍将校、学術全体にわたる専門知識を持つ民間研究者の協力を得た。これによって、新たな政策、戦略に関する課題を支援、研究する方法を編み出せるようになり、その結果、戦術的に優れた能力を持つ陸軍が誕生している。研究者らが見ているのは目の前の問題だけではない。次に何があるかを考え、産学との協力体制を築いて、解決方法を見つけ出そうとしている。これは、米軍の技術的優位と、柔軟なサイバー戦能力を維持、開発していくには欠かせない。

 従来の通信傍受、情報活動、特殊作戦の優秀な専門家らが連携することで、この取り組みは加速する。米陸軍兵はまだチェックリストを使っているし、技術的ミスで訓練が中断することもある。しかし、今後は、戦場でもサイバー空間でも、この国を守る高い能力を身に付けられるようになる。それは、陸軍サイバー研究所が、陸軍サイバー軍、陸軍サイバー中核的研究拠点、学術界、産業界と連携して進めている研究のおかげだ。

(ここに記した見解は、筆者個人のものであり、必ずしも、国防総省、陸軍省の見解を反映したものではない)

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