ブラジルで「配車サービス」戦国時代に
ブラジルで急成長する米国発の配車サービスの「Uber」。世界有数の拠点としてUberの世界戦略に欠かせない存在となっているが、ブラジルならではの課題やライバルの進出に直面、転換期を迎えようとしている。(サンパウロ・綾村 悟)
先行する米国系「Uber」
地元「99」が対抗、中国大手と連携
ブラジルは、本家の米国とインドに続くUberの稼ぎ頭となっており、同社にとって最重要拠点の一つだ。ドライバーごとの評価制度を導入した顧客サービスの良さや既存のタクシーに比べて安価に利用できることもあり、今やブラジルの大都市では欠かせない移動手段となっている。
日本では本格導入が始まっていないUberだが、一度利用してみれば、その利便性や経済性などは明らかだ。ブラジルでUberが運用されているのは、サンパウロやリオデジャネイロを含む大都市が中心だが、スマートフォンさえあれば、街中のどこにいても送迎が可能になるだけでなく、支払いも事前登録したクレジットカードやペイパル等で全てが決済できる。
加えて、利用後にはアプリやPCメールで領収書や利用経路、利用距離などが確認可能なため、回り道などドライバー側の不正があれば報告できる。また、ドライバー自身もアプリやマップで経路を確認しながら運転し、目的地まで確実に早く着けるという利点もある。
Uberがブラジルに上陸した2014年当時は、既得権を持つタクシー業界の反発が強く、タクシー業者らによる大規模なデモに始まり、Uberのクルマがタクシー関係者の焼き討ちに遭ったり、運転手や顧客が暴行を受けるなど、社会的に大きな関心を集めた事件も発生した。
ただし、その後も利便性や起業の簡便性から利用する顧客やUberに参入しようとする個人は後を絶たず、ブラジルのUberはわすか数年で世界でも有数の拠点に成長した。現在、サンパウロ市ではUberの登録台数が既存タクシーの登録台数を超えるほどになっており、ブラジル全土で900万人の登録ユーザーがUberのサービスを利用しているという。
Uber側も、南米最大の経済圏を持つブラジル市場を重視、今年1月には、サンパウロに2億レアル(約225億円)を投資してサポート(データ)センターを立ち上げる計画を発表した。データセンターでは、24時間体制で顧客対応やドライバーの支援を行うことになっており、アウトソーシングを含めて7000人の雇用を生み出す予定だ。
成長だけを見れば順風満帆のブラジルUberだが、一方ではライバルとの競争やブラジルならではのさまざまな障害にも阻まれ始めている。
ここ数年、Uberの浸食に悩まされてきたタクシー業界だが、ブラジルでは「99Taxis(99)」や「Easy Taxi」などタクシー配車アプリを活用したタクシー利用も増えている。特にブラジル発のアプリでもある「99」はタクシー配車アプリの強みを生かしてブラジル全土の350カ都市で展開、比較的大都市での利用に限られているUberにない強みを生かしている。
また、中国最大の配車サービスとして知られる「滴滴出行」が、今年1月、「99」に対して1億㌦(約120億円)相当の戦略的投資を発表。中国で4億人のユーザーを抱える世界有数規模の配車大手と組むことで、「99」はブラジルUberに対抗し得る配車アプリサービスになろうとしている。
加えて、タクシー業界側も配車アプリを利用した値引きサービスを始めるなど、まさにブラジルの配車業界は「タクシー(配車)戦国時代」とも言える様相を見せ始めている。
一方、ブラジルUberは2014年からクレジットカード登録やペイパルなどのオンライン決済のみを対象にしてきたが、現金払いを望む顧客からの要望が強く、2016年から現金決済を可能にした。ところが、現金目当てのタクシー強盗が多発、Uberを狙ったタクシー強盗の犯罪数は前年比10倍の月間140件にも上るようになった。
さらに、今年2月には、ブラジルの労働裁判所判事が「Uberのドライバーは契約事業主ではなく、Uberの雇用者に相当する」との判断を下した。裁判は継続中だが、その判断が変わらなければ、Uber側は膨大なドライバーに対して社会保障費や退職積立金など巨額の支出を迫られることになる。
さらにはタクシー業界は、現在もUberの違法性を訴えて連邦や地方行政レベルで政治的な圧力をかけ続けており、ブラジルUberにとって正念場とも言える状態になっている。