米軍再建への課題 失われる優位
カーター・ハム退役陸軍大将
自動的な歳出削減撤廃が不可欠
米国防費の一方的削減を続けたオバマ前政権とは対照的に、トランプ大統領は国防費の大幅増額を約束している。米紙ワシントン・タイムズは特集「2017年国防・軍の最優先課題」で多数の軍事専門家の寄稿を載せ、米軍の直面している課題を浮き彫りにした。一部の抜粋を紹介する。

カーター・F・ハム 退役陸軍大将。第82空挺師団、在欧陸軍司令官、アフリカ軍司令官など38年間にわたって軍務に就き、2013年退役。16年7月1日から、バージニア州に本部を持つ非営利教育団体、米陸軍協会の会長。
米国の最高司令官としての第一の責務は、憲法前文に記されているように、共同の防衛に備えることにある。
国民へのこの責務を果たすには、訓練を受けた近代的な軍が必要だ。拡大するばかりの複雑なミッションを遂行するための十分な能力も必要だ。
国内外の重要インフラを守り、人道的災害、自然災害に直ちに対応すること、同盟国の軍事力を強化すること、すべてが重要なミッションだ。ミッションに成功し、国民との揺るぎない信頼関係ができれば、米国、米国民、米国の利益を危険にさらす者らを抑止でき、それができない場合は、いつどこで起きるか分からない戦闘で敵と戦うことになる。
米国の陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊、州兵、予備役は、人員を確保し、訓練を受け、近代化され、あらゆる軍事活動で敵を圧倒しなければならない。最高司令官と連邦議会はこれを可能にする責務を負っている。
ミリー陸軍参謀長ら参謀長は、米軍が複数の大規模な対立に対して十分な能力、持続性を備えることが困難になっていると警告した。そのため、トランプ大統領の指導力が必要だ。
言うまでもなく米陸軍は世界一だが、突き付けられている世界的要求に応えるには小さ過ぎ、十分に近代化されていない。最高司令官と議会は今、この不足を解消し、陸軍に欠かせない戦闘・作戦即応力を回復する機会を与えられている。
トランプ氏と議会はすでに、陸軍縮小の動きを逆転させる考えを示している。トランプ氏は、陸軍の常備兵を60万人増やすことを表明しているが、それには、訓練、近代化、待遇改善への予算の完全な裏付けが必要だ。そこを中途半端にしたまま増員すると「中身のない軍隊」になってしまう。
軍の即応性を強化する最も効果的な唯一の方法は、陸軍とその軍務すべてに十分で、安定的で、予測可能な水準の資金供給を回復させることだ。議会は、国防費の増額を止める予算の上限を撤廃し、超党派の予算合意が交わされない場合に自動的に歳出を削減するシークエストレーションの懸念を取り払う必要がある。トランプ氏は、米国の最高位に就くための選挙戦で、軍のシークエストレーションの撤廃を要求し、ほとんどの議員から、戦略的にばかげていると非難された。
だが、そうばかりでもない。安定的な予算の供給には、大統領の指導力も必要だ。毎年のように新会計年度が緊急支出で始まるという不幸で、破壊的な現状を止めなければならない。予算継続決議で臨時に予算を捻出するようでは、新たな計画は始められないし、責任ある予算執行はできず、内部に不安の種をまくことになる。
同格の敵と戦う能力に空白
イラク、アフガニスタンなどで10年以上にわたる戦闘で、陸軍はテロと戦い、テロ対策を実施できるよう最適化された。そのため、同格の敵と戦う能力には大きな空白ができている。
防空、ミサイル防衛、長距離砲の不足が懸念され、旅団戦闘団の死亡率と生存率にも不安がある。陸軍は、次世代の戦術車両の配備では後れを取っており、戦車、歩兵戦闘車、野砲、航空機の向上が必要だ。
かつての米陸軍の技術的優位は、急速に失われている。国民を守るために自ら進み出てくれた兵士らが優位に戦えるようにするために、私たちはできる限りのことをしなければならない。
心配なのは装備だけではない。陸軍の常備軍、州兵、予備役、民間人労働力にも注意を向けるべきであり、専門能力開発の機会、国を守るための業務に対する十分な補償が必要だ。兵士、民間人とその家族、軍事組織、防衛産業に、ふさわしい待遇を与えるべきであり、時には励ますことも必要だ。尊重されていると感じさせることが必要だ。
(ワシントン・タイムズ特約)





