ISが31カ国に拡散、情報版マンハッタン計画を

米軍再建への課題-元上級将校の提言(2)

ブルース・ローラー退役陸軍少将

 クラウゼウィッツは、戦争とは他の手段による政治だと指摘した。暴力と死を伴う戦争は、従来の政治的、外交的手段で国が守れなくなった時のための最終手段だ。

ブルース・ローラー

 ブルース・M・ローラー 退役陸軍少将。国土安全保障会議の元メンバー、国土安全保障省の元首席補佐官。著書『殺傷力のある武器が関与する場合(仮訳)』が間もなく発売される。

 軍上層部は、二つのことに備えておかねばならない。「イスラム国」(IS)のようなテロネットワークを破壊することと、ロシア、中国、イラン、北朝鮮との高烈度戦闘に勝利することだ。

 2番目の任務を遂行する米国の能力は、シークエストレーション(歳出の自動削減)と、テロ対策への集中によって損なわれてきた。国民は懸念している。

 懸念が生じるのは、基本が間違っているからだ。政治と外交が失敗したためではなく、政治と外交を行わなかったために起きた戦争を軍は戦えるかという問題だ。

 戦争は、どちらの思想が勝つかだ。だが米国は、敵を分断するためでなく、私たち自身を分断させるために知的エネルギーを集中させてきた。長年、敵との思想的戦いは軽視されてきた。政治的情報を駆使して敵の思想への忠誠を失わせられる圧倒的力がありながら、米国はそれをしてこなかった。その結果、テロ思想が拡散し、悪人らが世界の秩序を揺るがすようになった。

 ISには勝つ。無人機で殺害し、シリアの混乱にも注意を払っている。そう言われれば確かにそうだ。だが、ISという「この汚いネズミ」のイデオロギーは、2014年6月にカリフ制国家を宣言して以後、31カ国に拡散した。米国が、沈黙し、その残虐な思想にイスラム教は大きく関わっていないと主張することで、ISのイデオロギーが拡大するのを許してしまった。

 そればかりか、この問題について話せるのはイスラム教徒だけだという。知的後退を感じさせる。死ぬべきかどうかについて話し合ったり、対話に参加することを拒否したりするのと同じだ。

 最新の世論調査では、90%を優に上回るイスラム教徒がテロを拒絶している。慰められる数字だ。イスラムは確かに平和の宗教だ。

 しかし、この数字に意味はない。少ないとはいえ、無視できない数のイスラム教徒がISを支持し、殺人を容認しているからだ。イスラム教徒は16億人いる。残念なことに、そのごく一部でも大変な数になる。イスラム教徒が多数派の国50カ国のうち、調査を行った11カ国で約3800万人に達する。

 この数字を下げるために、信仰を持つあらゆる人々がすべきことはたくさんある。暴力と殺人を容認する宗教は、倫理的に間違っていると訴えるべきだ。

 悪の勢力の前面には、ロシアのプーチン大統領がいる。プーチン氏は米国の裏をかき、出し抜いて、カフカスと中央アジアへの影響力を復活させようとし、東欧の一部を脅し、併合し、中東での影響力を取り戻そうとし、トルコに歩み寄って北大西洋条約機構(NATO)を分断させようとしている。

情報戦展開するロシア

 素晴らしい成果を上げた。米国の武力行使を招かない程度に悪事を働き、ロシアの影響力を拡大している。不満を持っている人々をうまく利用し、メディアを使い、抑圧し、怒りに火をつけ、党派間の対立を招く。その後、急襲し、平和を回復させる振りをして領土を奪うか、不安定化させ、必要に応じて調整する。

 これは、戦争の新たな形だ。攻撃性は隠し、あいまいにする。米国がプーチン氏の攻撃を止めるには軍事作戦しか手段はないため、プーチン氏の勝ちとなる。脅威が明確でないロシアとの全面戦争というリスクを、米国が冒すはずはないというプーチン氏の読みは的中した。

 米国としてできることはあるものの、海兵隊を送るほどでもない。

 ロシアの戦いのほとんどは、情報戦という形で行われる。米国がこの情報戦を実行すれば、明らかに優位に立てる。戦いのコストを引き上げ、悪事を暴き、反対する人々を連帯させ、敗北するかもしれないという状況をつくり出すことで、プーチン氏を押しとどめることができる。

 ソ連崩壊の原因が通常の軍事力ではなく、攻撃に伴って失うものが米国の存在によって非常に大きくなったためだったことを忘れてはいけない。共産主義よりも、自由と自由市場の方が国民は機会に恵まれることを米国は示した。

 米国には、敵対勢力に対して思想と情報で圧倒的な攻勢を仕掛けるインフラ、情報、政治的スキルがある。しかし、それを実行する用意がない。能力の問題ではなく、意思の問題だ。

 このような攻撃を受けても、従来とは違う対応を取る用意は米軍にはない。とはいっても、米国は核兵器を製造する用意はなかったが、マンハッタン計画で製造した。情報版マンハッタン計画で米国を守るべき時だ。

(ワシントン・タイムズ特約)