安定性を欠くトランプ外交

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

2つの路線と政策
リスク考慮、「敵」も慎重に

 トランプ大統領の外交政策の中心には、大変な矛盾がある。一方には、経験豊かで、判断力があり、伝統を守る人々がいる。米国で1945年以降守られてきた主流派の国際主義の中に完全に納まっている。メンバーは、国務省、国土安全保障省、中央情報局(CIA)のトップ。その上、マティス国防長官、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)もいる。そのうちの誰もが、実際にヒラリー・クリントン政権にいても、まるで違和感がない。

 他方の最高司令官は全く逆だ。経験はなく、伝統は守らず、自由奔放だ。「一つの中国」政策からアラブとイスラエルの2カ国共存まで、北大西洋条約機構(NATO)は時代遅れ発言から自由貿易の否定まで、あらゆる発表が、見ての通り混乱を招いている。

 ここではっきりとした疑問が生じる。この状態でうまくいくものだろうか。答えは今のところ、驚くべきことに、多分大丈夫だ。

 データはまだ少ないが、ドイツ訪問を例に取ってみよう。トランプ氏は、ペンス副大統領、マティス国防長官、ケリー国土安保長官、ティラーソン国務長官ら普通の大人をドイツでのさまざまな国際会議に送り、米国はこれまで通り欧州の安全保障に関与することを同盟国に伝えた。同盟国が米国に依存していることにトランプ氏が強い不満を抱いていることをほのめかした。とりわけトランプ氏は、国防の負担でただ乗りしていることに不満を持っている。

 数日内にドイツは、軍の2万人増員を発表した。ほかの小さな国々も、新たな現実に気が付いているようだ。古典的ないい警官と悪い警官という設定だ。長官らは、外交の連続性を考えているが、ボスは「アメリカ第一」を訴える。襟を正せということだ。

 民主主義防衛財団(FDD)のジョン・ハンナ氏によると、このプッシュとプルの併用は、友好国にも敵国にも効果を発揮し得る。中国は18日、年内の北朝鮮からの石炭輸入をすべて停止すると発表した。北朝鮮の全輸出の3分の1以上を占め、同国経済には大打撃となる。

 金正恩氏の異母兄を殺害するという厚かましさに、中国が反発したのがその一因である可能性がある。金正恩氏の異母兄はかつて、中国の保護下にあったからだ。そればかりか、石炭輸入停止表明のほんの数日前には、北朝鮮は挑発的なミサイル発射を行っていた。一貫性がなく、中国を刺激するような発言をする新大統領が就任してからまだ間もない。

 「一つの中国」政策を揺さぶる行動に中国政府は驚いた。南シナ海への中国の進出を強く非難したかと思うと、これ見よがしに日本の首相を歓待した。中国の神経を逆なですることは間違いない。中国の北朝鮮ボイコットは、米政府への追従だが、このようなことはあまりないことだ。

 米国の安全保障チームが、伝統を重んじる部下と破壊的なボスという特異で、不調和な構成になっているために、リチャード・ニクソンの古い「狂人理論」と同様の効果を生んでいる可能性がある。つまり、米大統領は予測不能で、無謀なことをすることがあり、まともでなく危険かもしれないと敵が思い、慎重に行動するようになるということだ。ニクソンの片腕だったヘンリー・キッシンジャーは、敵に圧力をかけるために何度もこの方法を使った。

 トランプ氏の部下らは、大統領の数々の突飛な発言に慎重に対応してきた。トランプ氏は何年も前から、イラクの石油を押さえておくべきだったと言ってきたが、マティス氏は19日、バグダッドでイラクの要人らを前にこれを否定し、「米国人は誰もがずっと、ガスと原油に金を払ってきた。今後もそれは変わらない」と話した。

 しかし、的を外れた発言が役に立つこともある。トランプ氏は、中東の2国家共存への米国の支持を事もなげに取り下げた。これは次の日、トランプ氏自身が任命した国連大使によって否定され、米国の方針は元に戻った。しかし、このような従来路線からの逸脱が役に立つ可能性がある。パレスチナ人にとってトランプ氏のこの発言は、何十年にもわたるイスラエルへの強硬姿勢がもう、独立実現に近づくための手段として役に立たなくなったのかもしれないというメッセージとなる。譲歩せず、米国がパレスチナ国家を持ってきてくれるのをただ待っているだけでは、何らかの代償を払うことになるかもしれないというメッセージとなる。

 確かに、二つの路線、二つの政策、二つの現実による外交政策は、リスクがあり、不安定で、完全に脱線してしまう可能性もある。事前に計画することはできない。不安定で、分かりにくい。しかし、最初の1カ月を見る限り、慎重な対応と運で、何とかうまくいっている。過激な発言と伝統的な政策の組み合わせでも、友好国と敵国の双方から良好な反応を引き出せるようだ。

 当然、最悪のシナリオもあり得る。だが、考えてどうなるものでもない。

(2月24日)