「ラストベルト」の攻防焦点
トランプVSヒラリー 米大統領選まで3カ月(7)
組織力で劣る米共和党のドナルド・トランプ氏が、なぜ党の指名を獲得できたのか。専門家の間でさまざまな分析がなされているが、共通しているのは白人労働者の「不満」と「怒り」をうまく使ってきたということだ。
「軽視され、無視され、見捨てられた人々のために変化をもたらす決意を毎日持っている。私はあなたたちの声だ」
共和党大会で指名受諾演説を行ったトランプ氏は、こう強調した。
この「見捨てられた人々」とは、白人労働者たちを指す。特に製造業などが衰退した「ラストベルト」(さび付いた工業地帯)と呼ばれる米中西部から東部の地域に住む人たちを強く意識しているのは間違いない。
「ラストベルト」には、グローバル化で海外に生産拠点を移す企業が増えたことで、職を失うなど不満を持つ労働者が多い。
「そうした労働者の間で、民主党支持からトランプ支持に転じる変化が起きている」。米国連代表部の元報道官で、FOXニュースのコメンテーターを務めるリチャード・グレネル氏はこう指摘する。
この動きはペンシルベニア州で顕著で、今年に入ってから7万人以上が民主党から共和党に所属を変えている。無党派層でトランプ支持に傾いている人たちは、これ以上に多くいるとされる。
トランプ陣営の選対責任者であるポール・マナフォート氏は、トランプ氏が「労働者の党は民主党」という従来の選挙構図を「一変させた」とし、「ラストベルト」の民主党支持者の切り崩しに強気の姿勢を示している。
一方、政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」が世論調査の平均値などを基に予測した10日時点での獲得選挙人は、民主党の大統領候補ヒラリー・クリントン前国務長官が246人で、トランプ氏が154人となっている。11月の本選は全米50州と首都ワシントンに割り振られた選挙人538人の過半数(270人)を獲得した候補が勝利となるため、トランプ氏にとっては極めて厳しい数字といえる。
これをいかに逆転するのか。トランプ陣営が狙うのは、伝統的に共和党が強い南部の州を抑えたうえで、オハイオ、ペンシルベニア州などの「ラストベルト」で民主党支持の白人労働者票を大量に奪い、その勢いで他の激戦州であるフロリダ州などを制す戦略だ。
もしこの戦い方が成功すれば、増え続ける中南米系有権者への対策が後手に回っていた共和党にとって、選挙戦略の大転換になる可能性もある。
ただ、グレネル氏は白人労働者がトランプ氏に流れているのと同時に、共和党有権者が民主党に支持転換する現象も今年の大統領選で見られる特徴だと指摘する。
中でも共和党の地盤であるジョージア、アリゾナ州で変化が大きく、各種世論調査でトランプ氏とクリントン氏の支持率が拮抗した状態になっている。
クリントン陣営もこれらの州で支持拡大を狙っており、仮にトランプ氏が両州を落とすようなら、大差で負ける可能性もある。
労働者の取り込みを図るトランプ氏に対して、共和党の地盤でも勝利を狙うクリントン氏。相手陣営の支持層にどこまで食い込めるかが、本選の行方を左右することになりそうだ。
(ワシントン・岩城喜之)
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