「覚悟」を固める福音派
トランプVSヒラリー 米大統領選まで3カ月(6)
先月20日、米オハイオ州クリーブランド市内のレストラン。共和党全国大会に合わせて開かれた中絶反対派の集会で、キリスト教福音派系の有力団体「家庭調査協議会」のトニー・パーキンス会長は、覚悟を決めた表情で同党の大統領候補ドナルド・トランプ氏への支持を呼び掛けた。
「トランプ氏が私の第1希望でなかったことは認める。だが、別の選択肢よりベターなのは確かだ」
米人口の4分の1を占める保守的な福音派は、共和党の主要支持勢力。だが、中絶など社会問題でかつてリベラルな立場を取っていたトランプ氏に強い不信感を抱いていた。パーキンス氏もその一人で、共和党指名争いではテッド・クルーズ上院議員を推していた。
だが、パーキンス氏の言う「別の選択肢」、つまり、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官が大統領になれば、オバマ大統領の下で加速した米社会のリベラル傾斜が一段と進むことは避けられない。トランプ氏はベストの候補ではないとしても支持する以外に道はない、パーキンス氏はそう覚悟を固めたのだ。
福音派の懸念を大きく和らげたのは、トランプ氏が副大統領候補に保守派の信頼が厚いマイク・ペンス・インディアナ州知事を起用したことだ。有力中絶反対派団体「スーザン・B・アンソニー・リスト」のマジョリー・ダネンフェルザー会長は本紙の取材に、ペンス氏起用を絶賛した上で、社会保守派はトランプ氏の下で「間違いなく結束できる」との見方を示した。
福音派にとって、大統領が連邦最高裁判事に誰を指名するかは重大な関心事だ。昨年、最高裁判断で同性婚が全米50州で合法化されたように、最高裁人事は米社会に絶大な影響を及ぼす。トランプ氏が全員保守的な人物から成る最高裁判事の候補者リストを発表したことも、福音派を安心させる材料となっている。
福音派は以前からリベラルなクリントン氏を毛嫌いしていたが、福音派の反感を一段と強めているのが、民主党の著しい世俗化傾向だ。民主党は2004年の綱領で男女間の伝統的な結婚の枠組みを明確に支持していたが、フィラデルフィアで先月開催された全国大会で採択された新たな綱領は、同性婚が全米で合法化されたことを称賛した。
また、今年の民主党大会は、同性愛活動家が「世界で“ゲイエスト(ゲイを最上級にした造語)”な政治集会だ」と絶賛するほど、性的少数者(LGBT)の権利拡大を前面に押し出していた。また、中絶賛成派団体会長が自身の中絶経験を自慢し、会場から拍手が起こる場面もあった。
トランプ氏が強固な選挙組織を有するクリントン氏に対抗するには、福音派を選挙戦の「歩兵部隊」として積極動員できるかがカギになる。だが、トランプ氏は大統領候補指名受諾演説で、福音派の支援に謝意を示す一方で、LGBT擁護を主張するなど、奇異な演説と受け止めた福音派も少なくないとみられる。
福音派が基本的にトランプ氏支持でまとまることは間違いない。だが、「反ヒラリー」という消極的理由を超え、熱狂的に支援するムードが生まれるかどうかは不透明な状況だ。
(ワシントン・早川俊行)