中央集権化強める露大統領

連邦管区大統領全権代表に軍・治安出身者を多く登用

 ロシアのプーチン大統領は7月28日、大統領令を発し、ロシアに9人(現在は8人)いる連邦管区大統領全権代表のうち、3人を交代させたほか、知事4人を解任した。新たにこれらポストに任命されたのは治安機関出身者が多くを占め、中央集権化をさらに強化する構えだ。また、一方的に編入したウクライナのクリミア半島を、南部連邦管区の一部とすることも発表した。(モスクワ支局)

官僚や政治家の汚職摘発進める

クリミアを南部連邦管区に編入

 連邦管区はプーチン政権が進めた中央集権化の一環として2000年に導入された。ロシア全土を七つの連邦管区に分け(2010年に北カフカス連邦管区を創設し8管区に、14年にクリミア編入に伴いクリミア連邦管区を設定し9管区に)、それぞれ大統領全権代表を送り、地方首長らに睨みを利かせた。

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モスクワで演説するロシアのプーチン大統領=7月27日(EPA=時事)

 今回の人事で、新たに任命された大統領全権代表や知事代行の多くは、連邦保安局(FSB)や、大統領や政府要人の警護を担当する連邦警備庁(FSO)、安全保障会議や軍などの出身者「シロビキ」である。

 プーチン大統領自身がFSB出身であり、シロビキはプーチン大統領を支える重要な基盤である。一方で、プーチン大統領が2000年に就任して以降、政権の重要ポストに据えられた大統領側近のシロビキたちが、エネルギーなどロシアの基幹産業の社長や重要ポストに移るケースが相次いだ。政府系の巨大エネルギー企業「ガスプロム」「ロスネフチ」や、武器輸出を担う「ロスオボロンエクスポルト」、対外経済銀行などである。

 これは、大統領側近らが直接に基幹産業を掌握することで、ロシアの富をコントロールする狙いがあった。富と権力はコインの両面であり、ロシア経済の拡大に伴い、プーチン政権の基盤はさらに盤石なものになるはずだった。

 しかし、国際的なエネルギー価格の下落がロシア経済を直撃し、さらにウクライナのクリミア半島をロシアが一方的に編入したことで、欧米や周辺国の強い反発と警戒を呼び、対露経済制裁を招いた。欧米などからの対露投資も止まり、ロシアを支えてきた基幹産業は苦境に立たされている。

 ロシアはクリミア編入を正当化する上で、「フルシチョフの歴史的過ちを正す」とのロジックを用いた。旧ソ連のフルシチョフ書記長が1954年、当時ロシア共和国領だったクリミアをウクライナ共和国に移行したことがそもそもの過ちであり、クリミア編入はその過ちを修正しただけ、という主張である。

 しかし、フルシチョフ書記長がロシア共和国から周辺国に移行した領土は、クリミアだけではない。シベリアの一部をカザフスタン領にしており、このロジックはカザフスタンに疑心暗鬼を生じさせた。一時は極めて友好的だったベラルーシのルカシェンコ大統領も、ウクライナ危機以降、ロシアと距離を広げた。

 ロシアと対立するウクライナは、かつてソ連に侵略されたポーランドに接近した。ロシアは周辺国との溝を広げた上に、ウクライナ・ポーランド両国合わせて人口9000万人を超える新たな“反ロシア・ブロック”と対峙(たいじ)することになった。

 ロシアは財政状況の悪化に伴い歳出の削減を進めているが、軍関係予算の削減は小幅にとどまっている。欧米や周辺国との軋轢(あつれき)を広げる中では、軍事予算に大ナタを振るうのは難しい。ロシアの軍関係予算(国防予算・安全保障治安関係予算)は歳出全体の48%に達した。

 軍事関係の支出が財政を圧迫し、経済テコ入れのために多くの予算を割けない状態が続いている。そのような中でもロシア経済の悪化とルーブル暴落による物価上昇は市民を苦しめ、最新の世論調査によると、ロシア人の6人に1人が、貧困ライン以下の生活を強いられている。

 プーチン政権はクリミア併合や、メディアを駆使した欧米へのネガティブキャンペーンと愛国教育で求心力を保ってきたが、その限界も見え始めている。

 そこでプーチン政権が力を入れているのが、官僚や政治家の汚職摘発キャンペーンである。実際にロシアの汚職は深刻であり、汚職摘発は国民の受けがいい。今回の人事でも、解任されたカリーニングラード州知事の後任として、同州FSBのエフゲニー・ジニチェフ長官を知事代行に任命した。大統領の支持基盤であるシロビキを州のトップに据え、中央集権化を進めると同時に、地方政治家や官僚の汚職摘発を進める構えと見られている。

 国民の愛国心を高める仕組みも忘れてはいない。クリミアに設定していたクリミア連邦管区を廃止し、南部連邦管区に編入することを決定した。“特別扱い”の移行期間を経て、名実ともにロシアの領土であることを改めて示した形になる。