アジア安定左右する米軍再建
トランプVSヒラリー 米大統領選まで3カ月(3)
「米国第一」を掲げ、孤立主義的な色彩が濃い共和党の大統領候補ドナルド・トランプ氏の外交・安全保障政策。知日派の代表格リチャード・アーミテージ元国務副長官が、民主党の大統領候補ヒラリー・クリントン前国務長官への支持を表明するなど、党内からも強い反発が出ている。
ただ、トランプ氏の政策が党内ですべて否定的に受け止められているわけではない。肯定的に評価されている主張もある。その一つが「米軍再建」を明確に支持していることだ。
「米軍の抑止力がいったん失われたら、取り戻すのは極めて難しい。トランプ氏は大幅な国防費増額の強力な支持者だ」
先月、共和党全国大会に合わせ、オハイオ州クリーブランド市内で講演した同党のトム・コットン上院議員はトランプ氏の主張に一定の評価を与えた。コットン氏は39歳の若手議員だが、外交・安保分野の優れた見識は共和党外交サークルから高く評価され、将来の大統領候補として期待される人物だ。
オバマ政権下で進められた急激な国防費削減に伴う米軍の戦力低下は、中国の急速な軍拡と合わせ、アジア太平洋地域の軍事バランスに暗い影を落としている。国防費増額による「強い米国」の復活は、日本にとってもアジアの安定にとってもプラス要素だ。
共和党が採択した綱領は、日本などアジア同盟国に関する記述はごくわずかだが、中国に対しては厳しい表現が並ぶ。「毛沢東のカルトが復活した」と断じるとともに、南シナ海における中国の主張を「非常識」と切り捨てている。
綱領がトランプ氏の考えを完全に反映しているわけではない。それでも、綱領委員会の主要メンバーを務めたアジア専門家のスティーブ・イェーツ・アイダホ州共和党委員長は、本紙の取材に「中国に関する記述にトランプ陣営から反対はなかった。トランプ氏は中国との関係に極めて懐疑的だ。綱領はトランプ陣営の考え方の起点と捉えていい」と語った。
一方、国際協調重視のクリントン氏が大統領になれば、強固な日米関係やアジア太平洋へのリバランス(再均衡)政策は維持される可能性が高い。ただ、民主党が急激に左傾化する中で、クリントン氏が米軍の増強にどこまで取り組めるか疑わしい。リバランス政策では海軍艦艇の6割を太平洋に配備する計画だが、減少する艦艇数を増やさなければ対中抑止力は高まらない。
また、フィラデルフィアで先月開催された民主党全国大会の初日、61人が演説したが、過激派組織「イスラム国」(IS)やテロの脅威について、誰一人言及しなかった。国内問題に比べ外交・安保への関心が薄い民主党の傾向を改めて印象付けた。
トランプ氏、クリントン氏、どちらが大統領になろうと大きな不安が残る。それでも、日本は新政権と緊密な関係を模索していく以外に道はない。香田洋二元自衛艦隊司令官はこう指摘する。
「米国人が大統領を選ぶのだから、われわれはこの人は嫌とは言えない。日本政府はプランAとプランBを用意し、今から両陣営にアプローチして影響を与えていくことが求められる。日本の総合外交力が問われる」
(ワシントン・早川俊行)