少数派に敬遠される共和党
トランプVSヒラリー 米大統領選まで3カ月(5)
39%――。これは2012年米大統領選でオバマ大統領が獲得した白人票の割合だ。オバマ氏は白人票が4割足らずでも再選を果たすことができた。逆に、共和党の大統領候補ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事は、白人票の59%を獲得したにもかかわらず、勝てなかった。
この年、黒人の93%、中南米系の71%、アジア系の73%がオバマ氏に投票した。つまり、オバマ氏は白人票の劣勢をマイノリティー(少数派)票の圧倒で補ったのだ。
少数派の支持を増やさなければ、万年野党になりかねない――。前回大統領選で共和党はこのことを身に染みて学んだ、はずだった。
ところが、共和党の大統領候補ドナルド・トランプ氏は、教訓とは真逆の方向に進んでいる。「イスラム教徒は入国禁止」「メキシコ人は強姦(ごうかん)犯」などの暴言により、トランプ氏は「レイシスト(人種差別主義者)」のイメージが強まり、少数派を完全に遠ざけてしまっている。
NBCテレビとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙が最近実施した世論調査によると、トランプ氏を支持する黒人はわずか1%。いくら黒人が伝統的にガチガチの民主党支持層だといっても、これは異常な低さだ。
また、大統領選の勝敗を左右する「スイング・ステート(揺れる州)」の一つ、フロリダ州で行われた世論調査では、トランプ氏を支持する中南米系は13%にとどまった。全米各地で急増する中南米系の支持率低迷は、激戦州で致命的痛手になりかねない。
少数派の人口増加に伴い、白人票の割合は大統領選ごとに2~4%減少しているといわれ、白人頼みの選挙戦略では将来、限界が来ることは目に見えている。WSJ紙は「共和党にとって最大の長期的問題は人口構造だ」と指摘したが、決して誇張ではない。
一方、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官は少数派の支持率で圧倒的優位に立つが、不安材料がないわけではない。2010年と14年の中間選挙が示すように、少数派の間で高い人気を誇るオバマ大統領が投票対象ではない選挙では、少数派の動員力が大幅に鈍るからだ。それでも、オバマ氏の代わりにトランプ氏に対する反感が、少数派を投票所に足を運ばせる原動力になる可能性は十分ある。
オバマ氏のいない今回の大統領選は、共和党にとって少数派に食い込んでいく「絶好のチャンス」(ワシントン・タイムズ紙)だった。特に、民主党候補が好感度、信頼度の低いクリントン氏だからなおさらだ。だが、そのチャンスをみすみす逃してしまった格好だ。
少数派に敬遠される共和党に未来はあるのか。大統領選の勝敗にかかわらず、トランプ氏の暴言で「レイシストの党」のレッテルを貼られたことは、共和党を長期にわたって苦しめる可能性が高い。
(ワシントン・早川俊行)






