始まる米大統領選挙レース

那須 聖在米外交評論家 那須 聖

リベラル潮流に変化か

民主・共和とも指導力が鍵

 アメリカでは来年の11月に大統領選挙が行われる。アメリカの憲法の規定によると、この選挙に立候補する資格は35歳以上で、少なくとも14年間アメリカで生活してきた人となっており、更に2期以上ホワイトハウスの主を務めた人は、出馬の資格が無い。

 元来アメリカに住んでいた原住民はアメリカン・インディアンと呼ばれ、現在は政府の保護を受けている少数民族であるから、大統領選挙では重視されない。

 アメリカは、18世紀に本国イギリスの政策に反対であったアングロ・サクソン系の人々が渡ってきて当時のイギリス領から独立させてできた国であり、独立以来、欧州、中南米、アジア諸国などから移民として入国した人々、及びアメリカで生まれた彼らの子孫が形成する国家である。従って、アメリカは、日本のような血統主義の国に対して、出生地主義を取る。

 アメリカは共和党及び民主党という二つの大政党が定着している国であるから、大統領選挙ではいずれかの政党から立候補していなければ、当選の可能性がない。

 これまでの大統領選挙で、二大政党のいずれにも属さないで、無所属で立候補した人が何人かいたが、実質的な票を得ないまま落選している。

 ところで二大政党は来年の夏、それぞれ全国大会を開き、ここで党の立候補者を指名する。ここで二大政党の特徴を述べると、共和党はアメリカがユダヤ教、キリスト教の思想を土台として作り上げられたとして、この土台を守り通そうとする。そして国民の人権、自由を守り、できるだけ減税して、政府の規模を小さくし、多くのことを国民に自発的にやらせようとする。従って、実業家はじめ裕福な人々が支持層になっている。

 これに対して、民主党はどちらかと言えば、社会主義的で、高所得者から多くの税金を取り上げ、大きな政府を作ろうとする。オバマ政権は、まさにそのような政権であると言えよう。

 それでは来年の夏の全国大会で、二大政党は誰を大統領候補に指名するであろうか。まず与党である民主党は、知名度の点で誰にも劣らないヒラリー・クリントン氏(日本では多くの人が“不倫トン”と呼んでいた元大統領の夫人)だと言われており、共和党は元フロリダ州知事のジェブ・ブッシュ氏、選挙に強いニュージャージー州知事のクリス・クリスティー氏などが、立候補の意向を固め、準備している。

 アメリカの選挙有権者はここ数年来、リベラル、つまり左寄りだと言われ、また2012年及び08年の選挙では黒人であるオバマ氏が候補であったことから、黒人が組織的に民主党候補(オバマ氏)を支持したが、来年はそのようなことはないであろう。多くの人々は、クリントン夫人の知名度がどの程度効果を発揮するかに関心を持っている。

 アメリカで過去8年間、大統領としての指導力の無い人がホワイトハウスを占拠してきたために、世界の平和と秩序を維持することができず、世界情勢は群雄割拠のような状態に陥っていった。そこで、次の大統領には知名度でなく、指導力を持った人がなることが大切であるが、この点から見るとジェブ・ブッシュ氏は、大統領を務めた彼の父・兄よりも有能だと言われている。

 一方、民主党は過去に4年間国務長官を務めたヒラリー・クリントン女史を大統領候補に指名する可能性が大きい。彼女は国務長官として112カ国、距離にして約100万マイル、約400日間諸外国を訪問するという新記録を作るほど、強靭(きょうじん)な意志と体力に恵まれていたが、その割には、特筆すべき業績がない。つまり指導力に欠けていると言わざるを得ない。

 一方、共和党はジェブ・ブッシュ氏、クリス・クリスティー氏らが立候補の意向を表明し、すでに選挙資金集め、つまり選挙の前哨戦に乗り出している。この2人は、もし全国大会で大統領候補としての指名を受けるのに時間がかかれば、それだけヒラリー・クリントン女史に有利になるとして、前哨戦に懸命になっている。

 従って来年の大統領選挙では、共和党はこの2人のうちの、どちらかを候補に指名し、民主党のヒラリー・クリントン女史と対決することになるであろう。

 そこで問題になるのは、大統領としての指導力の無いオバマ氏を再選させた有権者がどちらを選ぶかである。08年及び12年には、黒人の有権者が組織的にオバマ氏を支持しただけではない。選挙当時の雰囲気に乗せられてオバマ氏を当選させたが、次はどうであろうか。

 もし共和党の候補が勝てば、アメリカは再び超大国になり、国際社会の平和と秩序の維持に貢献するし、日本の国民は、不自然な軍事力増強をしている中国に対しても、日米安保条約が生き生きしていると感じるであろう。

 しかし、もしヒラリー・クリントン女史が当選すれば、アメリカはオバマ現大統領の下で、イギリス、フランス、ドイツのような西ヨーロッパ諸国並みの国家に格下げになったままの状態を続けることになるであろう。

 従って来年の大統領選挙は、単に4年に一度の選挙ではない。国際社会にとって、また日本にとっても極めて重要な変化をもたらす選挙だと言えよう。

(なす・きよし)