キューバのデモ、抑圧的政権に制裁解除は論外
共産党独裁体制のキューバで大規模化した反政府デモは、治安部隊や体制支持派の動員による暴力的な取り締まりで死亡者が確認されたほか、多くの逮捕者が出ている。体制への不満を訴える国民を抑圧する独裁体質が露呈しており、キューバが国連に求めた米国の経済制裁解除は論外であろう。
ワクチンなど物資不足
体制派のデモ以外は認めない社会主義国のキューバで、11日に発生した異例の反政府デモに首都ハバナだけでも数千人が街頭に繰り出して、停電、食品不足、医薬品不足、新型コロナウイルスワクチン不足への不満や救済を求める「SOS」などを叫び、ディアスカネル大統領の退陣を求めた。
これに対しディアスカネル氏は、デモ参加者が訴えた品々の不足は米国の経済制裁が原因であり、米国のインターネットを通じた情報操作がデモを引き起こしたと主張したが、米国への責任転嫁には無理がある。
確かにトランプ前米政権はキューバへの経済制裁を強化したが、軍傘下の企業集団が主な制裁対象で、キューバ人個人の自由営業やビジネスは制裁を受けていない。トランプ政権の間もキューバが主力産業とする観光業は成長しており、外国人旅行客は米国人を除いても新型コロナの世界流行(パンデミック)前には年間約500万人まで増えていた。パンデミックが観光業をはじめとする経済に打撃を与えた大きな要因であることは明らかだ。
昨年の国内総生産(GDP)成長率がマイナス11%となったキューバは、財政難とともに、コロナ感染が6月から急増している一方でワクチン不足の状況から民衆の不安が噴出した格好だ。デモはネットの拡散から自然発生したもので、既得権益を握る政府・軍関係者との格差拡大、2種類あった通貨を今年から一本化した二重通貨制度廃止による物価上昇などへの鬱憤(うっぷん)も背景にある。
デモ参加者からは、治安部隊に殴られて血を流す人、無理矢理拘束される人の様子など多くの動画が投稿された。懸念されるのは、共産党独裁体制を維持しようとする政府によって、生活上の訴えをする自由さえも反米イデオロギーをむき出しにした抑圧で封印されることだ。ネットへの接続はデモ発生後に遮断され、既に100人以上の逮捕者が出ていると言われる。今後、情報統制の下に逮捕者や犠牲者が増加しかねない。
米国がキューバと国交を回復したオバマ政権時代に副大統領だったバイデン大統領は、トランプ政権の対キューバ強硬路線の転換を公約に掲げたが、今回の反政府デモを支持した。
国民苦しめる共産党独裁
これは、国家安全維持法が施行された香港で民主派を「外国と通じた」などの理由で次々と逮捕する中国当局を支持できないのと大差ないことだ。6月の国連総会でキューバは米国の経済制裁に対し、国民を「窒息死させる」と述べて解除を求めたが、国民の息を詰まらせているのは共産党独裁である。制裁解除を要求する決議はわが国を含む賛成多数で採択されたが、今後は再考されるべきだろう。