クリミア併合5年、「力による現状変更」を許すな
ロシアのプーチン政権がウクライナ南部クリミア半島を武力で併合してからきょうで5年となる。
併合は国際法に違反するものであり、「力による現状変更」を許すことはできない。
実効支配強めるロシア
クリミアはロシア系住民が多数を占め、2014年2月にウクライナの親ロシア派政権が崩壊したことを受け、ロシアが軍事介入したことで併合された。親露派が主導した同年3月16日の住民投票はロシアへのクリミア編入を承認。プーチン大統領が18日に編入条約に署名した。
しかしロシア系住民が多いといっても、クリミアはウクライナ領である。ロシアの行動は他国の主権と領土を侵害するものであり、決して容認できない。先進7カ国(G7)がロシアに制裁を科したのは当然だ。
だが、ロシアはインフラ整備を進めてクリミアの実効支配を強化。昨年5月にはロシア本土とクリミアを結ぶ「クリミア橋」を開通させるなど「ロシアとの一体化」を進めている。11月にはロシア本土とクリミアを隔てるケルチ海峡でロシアがウクライナ艦船を拿捕(だほ)し、両国間の緊張が高まった。
ロシアはクリミア併合にとどまらず、ウクライナ東部の政府軍と親露派との紛争にも軍事介入している。紛争による死者は民間人を含めて1万人を超え、100万人近い人が食料難に陥っているという。
ロシアは本来、親露派に影響力を行使して紛争を終結させるべき立場だ。人道危機を放置することは許されない。
もっとも、クリミア併合で8割台に上昇したプーチン氏の支持率は、昨年末には6割台にまで落ちた。年金支給開始年齢引き上げを含む年金改革に対する不満に加え、経済低迷への鬱憤(うっぷん)がたまっているとみられる。
経済低迷は制裁による影響が大きい。プーチン氏は支持率を上げるため、再び対外強硬策に打って出るとの見方もあるが、そうすれば国際的な孤立を深めるだけだろう。
ロシアの孤立が際立つのは国際政治の舞台だけではない。キリスト教東方正教会の最高権威であるコンスタンチノープル総主教庁(トルコ・イスタンブール)は昨年10月、ウクライナ正教会の独立を承認した。ウクライナ正教会についてはロシア正教会が管轄権を主張していたが、その独立によってロシア正教会は東方正教会での影響力を大きく失い、プーチン政権にとっても打撃となった。
ロシアは日本固有の領土である北方領土も、70年以上にわたって不法占拠している。この点で、ウクライナと日本は同じ立場にある。日本は北方四島の返還とともにクリミア併合の撤回をロシアに強く要求しなければならない。
ウクライナを支えよ
ウクライナでは今月31日に大統領選が行われる。クリミア併合後の大統領選で当選した現職のポロシェンコ大統領は、東部での紛争終結を実現できないことなどから支持率は伸び悩んでいる。誰が大統領になるとしても、国際社会はウクライナを支え、ロシアへの圧力を強めていく必要がある。