モスク銃乱射、過激思想の拡散を防止せよ
ニュージーランド(NZ)中部のクライストチャーチにある2カ所のモスク(イスラム礼拝所)で銃乱射事件が発生し、計49人が死亡した。
反移民の過激思想に基づく犯行とみられているが、卑劣極まりない無差別テロである。
ネットで犯行を「生中継」
3人の容疑者のうち、オーストラリア出身の主犯格の男はインターネット上の投稿で、反移民を唱えた上で、NZを標的に選んだのは「世界のどこにも安全な場所はない」ことを示すためだったと表明した。
男は半自動の銃器で武装し、モスク内で無差別に乱射。はいつくばって逃げようとした信者にも徹底的に銃弾を撃ち込んだという。車で銃弾を補充し、今度は床の上で動かなくなった信者に向かって銃撃を始めた。冷酷かつ残忍な犯行であり、断じて許すことはできない。
さらに男は犯行の一部始終をネットを使い、17分間にわたって「生中継」するなど、極めて異様な行動を取っている。移民への激しい憎悪が背景にあるとみていい。
NZでは厳格な銃規制が敷かれているが、最近は火器の保有が増えている上、少数派の移民に反発する極右思想の信奉者も広がりつつある。白人至上主義者が移民らを襲撃する事件も起きていた。
治安当局は過激主義者の捜査を強化していたものの、3人の容疑者はいずれも前科がなく、当局の要注意人物リストにも入っていなかった。主犯格の男は2017年に欧州を訪れた際、反イスラム感情を抱き、白人至上主義などを信奉するようになったという。
事件後、クライストチャーチを訪れたNZのアーダーン首相は「これはわれわれが知るニュージーランドではない」と述べた。治安の良かったNZで今回のような大量殺害事件が起きたことの衝撃の大きさを物語っていると言える。
アーダーン氏は銃規制を強化する意向を表明した。過激主義者に対する監視もさらに厳しくする必要がある。
安倍晋三首相は、アーダーン氏宛てのメッセージで「日本はニュージーランド、国際社会と手を携えてテロと断固として戦う決意だ」と伝えた。国際社会はテロリストなどに関する情報の共有とともに過激思想の拡散防止に向け連携を強化しなければならない。
もっとも今回の事件でも見られるように、移民との共存は世界的な課題となっている。欧州では中東や北アフリカから渡って来る難民や移民が増え、各国では反移民を掲げる政党が勢力を伸ばしつつある。
五輪に向け対策強化を
日本と同様に「安全な国」だったNZで起きた今回の無差別テロは、日本も決して油断できないことを示していると言えよう。20年東京五輪・パラリンピックを控える中、一層の対策強化が求められる。
一方、日本では今年4月、外国人労働者の受け入れ拡大に向けて新たな在留資格が設けられ、熟練技能を持つ人は家族の帯同も認められる。これまで以上に日本に滞在する外国人との相互理解を深めていきたい。