米人権報告書、韓国政府の脱北者抑圧は遺憾


 米国務省は世界各国の人権状況をまとめた2018年版の国別人権報告書を発表し、韓国の文在寅政権が国内に定住する脱北者たちの北朝鮮批判を抑え込もうとしていたと指摘した。

 北朝鮮に融和的な文政権の脱北者軽視を如実に示すもので、北朝鮮との対話重視を理由に脱北者の人権を抑圧する姿勢は大いに問題だ。

北批判しないよう圧力

 現在、韓国の脱北者は3万人を超えたが、多くは食糧難を逃れるためか、体制への不信・不満など政治的理由によるものだ。命懸けで国境越えする人も少なくない。金正恩朝鮮労働党委員長を中心とする独裁体制下で生活面や精神面で追い詰められ、最後の手段として脱北を決意するケースは後を絶たない。

 脱北後、彼らが祖国の民主化に向け独裁体制の崩壊を望むのは極めて当然のことだ。こうした思いを政府が踏みにじることがあってはならないはずだ。ところが、文政権は正恩氏を刺激したくなかったのか脱北者の活動に制限を加えていたようだ。

報告書は「北朝鮮と対話局面に入った昨年、韓国政府が脱北者団体などに直接・間接的な圧力をかけ、北朝鮮に対する批判世論を減少させようとしたと報告された」と指摘した。

 その具体例として、韓国政府が昨年2月の平昌冬季五輪を前に脱北者たちの北朝鮮批判を防ぐため彼らに接触し、批判を控えるよう要請したとの報道があったとし、文政権の対北融和政策に批判的とおぼしき講演を行わないよう要請したことが明らかになったと指摘した。

 また報告書は、統一省が昨年10月の南北閣僚級会談で脱北者出身記者の取材を不許可にしたことや、20年間続いていた脱北者団体への支援金支払いが中断されたこと、北朝鮮批判ビラの散布活動が阻止されたことなどを問題視した。

 16年に韓国亡命した元駐英北朝鮮公使の太永浩氏も昨年、正恩体制に批判的な著書を出版した際、間接的な圧力をかけられていたことが関係者の証言で明らかになっている。

 文政権は昨年以降、北朝鮮を全面擁護してきたと言っても過言ではない。北朝鮮が望んだ米朝対話を実現させるためその仲介役を喜々として買って出た。疑わしい北朝鮮の完全非核化の意志を「信じてほしい」と国際社会に向けて代弁した。脱北者の北朝鮮批判は自らの政策遂行にとって都合が悪いと思ったとしても不思議ではない。

 しかし、だからといって権力を笠(かさ)に着て脱北者たちの言論の自由を奪ったり、脱北者への支援を打ち切ったりするのは卑怯であり、許されない行為だ。脱北者たちに対する新たな人権蹂躙(じゅうりん)であり、かつて人権派弁護士で鳴らした文大統領自身の哲学にも反するのではないか。脱北者政策の再考を促したい。

北の惨状にも目を

 報告書は北朝鮮にも言及し、「殺人や強制失踪、命を脅かす政治犯収容所などにより政権レベルの人権侵害が行われている」と指摘した。文政権が常日頃から強調する朝鮮半島の平和を真に願うのであれば、こうした北朝鮮の惨状からも目をそらしてはならない。