東方正教会、露の影響力低下は不可避
ロシアとウクライナの関係は2014年3月のロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合以降悪化した。
今年11月にはロシアがクリミアとロシア本土を隔てるケルチ海峡で「領海侵犯」があったとしてウクライナ海軍艦船3隻を拿捕し、これを受けてウクライナ政府が戒厳令を発令する事態に発展。両国の亀裂は決定的に深まった。
ウクライナ正教会独立へ
こうした対立の影響は宗教界にも及んでいる。ウクライナ正教会の各派は首都キエフで主教会議(シノド)を開き、各派を統合した新しい正教会の創設について協議した。
キリスト教東方正教会の最高権威、コンスタンチノープル総主教庁(トルコ・イスタンブール)が10月、ロシア正教会からの独立を承認したことを受けてのものだ。ウクライナ正教会は1990年代にロシア正教会から離脱したキエフ総主教庁のほか、ロシア正教会傘下のモスクワ総主教庁派の教会などに分裂した。
新たなウクライナ統一正教会の総主教(首座主教)にはエピファニー府主教のセルヒー・デュメンコ氏が選出された。来年1月には、コンスタンチノープル総主教庁がウクライナ正教会の独立に関する「トモス」(宗教上の決定文書)を交付し、独立を正式に承認する見通しだ。3世紀にわたってウクライナ正教会を管轄下に置いてきたロシアは激しく反発している。
ロシア正教会は今年10月、コンスタンチノープル総主教庁との関係断絶を表明。これで東方正教会の分裂は決定的なものとなった。今回の主教会議に関しても、ロシア正教会はモスクワ総主教庁派の主教に不参加を呼び掛けた。その結果、主教90人のうち出席したのは2人だけで、モスクワ総主教庁派は今回の統一を拒否している。
ウクライナで正教会独立の機運が高まったのは、ロシアによるクリミア併合やウクライナへの軍事介入のためだ。反露路線を取るポロシェンコ大統領は4月、コンスタンチノープル総主教にウクライナ正教会の独立の承認を訴える嘆願書を提出。主教会議に出席したポロシェンコ氏は「われわれは神聖かつ偉大な目的に向け、最後の歩みを進めている」と強調した。
ロシアのプーチン大統領は生後1カ月半で正教会の洗礼を受けた。現在も敬虔なロシア正教徒を自認しており、ロシア正教会トップのキリル総主教とも親密な関係にある。
プーチン氏は国民を統合する価値観として、国家や民族、宗教的伝統を重視するロシア正教を活用してきた。だが、ウクライナ正教会の独立やコンスタンチノープル総主教庁との対立は、ロシア正教の正当性をも揺るがしかねない。
主権侵害が招いた事態
世界の正教会の中でロシア正教会の影響力が大きく失われることも避けられまい。正教会を通じて東方正教会圏に政治的な影響力を及ぼそうとしていたプーチン氏の野望は後退せざるを得なくなろう。こうした事態を招いたのは、ロシアによるウクライナの主権侵害であることをプーチン氏は自覚すべきだ。