プーチン氏4選、日露交渉で拙速を戒めた産経と再考を求めた朝日

◆明るい展望見られず

 日本人にロシア嫌いが根強くあるのは先の大戦で日本と旧ソ連の間には日ソ中立条約が結ばれていたのに、終戦の1週間前に突然、これを破ってソ連軍が対日参戦し攻撃してきたこと。この攻撃でソ連軍は虐殺、強姦(ごうかん)など非人道的な戦争犯罪を行ったことが大きく影響しているのである。また、旧ソ連が共産党独裁政権で、その理想とは裏腹に政権や共産主義思想を批判したり抵抗したりする国民を許さず、さまざまな非人道的な弾圧を加えてきたからでもある。

 その旧悪から生まれ変わったはずのロシアの大統領選で現職のプーチン氏が圧勝し、通算4選を決めた。任期を全うすると、首相時代を含めて実質24年間にわたり権力を手にすることになる。

 だが、新聞の論調(各紙20日付、小紙21日付)に期待感や明るい展望を示すものはなく、その先行きに不安と懸念を抱く見方で満ちあふれている。日本との関係では今週、ラブロフ露外相が来日し、5月には安倍晋三首相が訪露する予定だが、北方領土返還に道筋を付けるべく日露改善にやや前のめり気味の首相をたしなめる新聞まで出ているのである。

◆選挙の公正性に疑問

 まずプーチン氏が「ロシアの名の下に、共に大事業をなし遂げよう」と呼び掛け勝利宣言した大統領選挙は公正に行われたのか。投票率67%、得票率は過去最高の76・6%(中央選管の暫定集計)に達したと報道されている。

 だが、これは「政敵の出馬を認めず、国営メディアや国営企業を総動員する強権的な手法で圧勝」(読売)したものだ。だから「形式的には公正に行われた大統領選だが、対抗馬は事前に排除され、メディアは統制を受けた。どれだけ透明性が確保されたのだろうか」(産経)とか、投票した若者へのコンサートチケット配布例などが報告されたことや、「票数の水増し疑惑も浮上している。公正な選挙だったと言えるのか疑問が残る」(毎日)、「選挙の公正性が確保されたのか」(小紙)などと疑問を突き付けた。

 「選挙は形だけのものだった」とする朝日は「ただ、選挙が公正に行われても、当選は動かなかっただろう」と、言外に圧勝は〈不公正の結果〉と読めるように言い回しているのが興味深い。

 プーチン4選後のロシアについては懸念ばかりで展望は明るくない。

 最大の問題は経済に展望がないことだ。国内総生産(GDP)が米国の約14分の1(1兆2800億ドル)、中国の約9分の1にすぎない上に、「輸出の3分の2は石油・ガスなどエネルギーに依存し、新しい産業が育っていない」(毎日)からである。そのあたりを日経は「次の任期では貧困や人口減対策などに全力を尽くすというが、ロシア経済は原油価格の低迷や米欧の経済制裁の影響で、今後も低成長が続く見通しだ」と分析する。

◆強硬外交維持を懸念

 今回の圧勝で「プーチン氏が強硬外交を維持する可能性が高まったこと」(読売)は大きな懸念である。「核大国を誇示し、米欧への対抗心をむき出しにする強権的なプーチン体制の行方には懸念が拭えない」(日経)。だが「米欧と対立したまま、経済の停滞から脱し、国民生活を安定させることは」(読売)かなわないし「自らの求心力を高めるために欧米との対決姿勢を強めるだけでは、対外政策の悪循環から抜け出せない」(毎日)ことは今や自明の理である。

 同様に、プーチン氏の独裁的な統治が強まる懸念に言及した朝日は「4選を決めた今、こうした危険な路線からの転換が求められる。まずは欧米を含む外国との建設的な協力関係を立て直すこと」を求める。同感である。

 北方領土問題が絡む日露関係には毎日を除く各紙が言及したが、踏み込んだ指摘をしたのは産経と朝日である。産経は「世界におけるロシアの位置付けを見極め、拙速な対露交渉を戒める姿勢がより求められる」と、やや前のめり感の拭えない政府に慎重な対応を求めた。これも同感である。朝日も政府に「対ロ外交を再考すべき」ことを求めた。「平和条約を急ぐあまり国際的な懸念に目をつむ」るような姿勢などを諫(いさ)めるのだが、これが“何でも安倍批判”の一環としての主張ではないことを願うだけである。

(堀本和博)