露変動相場制、国際社会は圧力を強化せよ


 ロシア中央銀行は、米ドルとユーロの通貨バスケットに対する自国通貨ルーブルの許容変動幅を撤廃し、事実上の変動相場制に移行すると発表した。ウクライナ危機をめぐる米欧の経済制裁を受け、ルーブルが急落したのが大きな理由だ。

 制裁は確実に効果を上げている。ウクライナの安定回復に向け、国際社会は親露派の後ろ盾であるロシアへの圧力を強めるべきだ。

 ルーブルが史上最安値に

 ロシア中銀は声明で「ルーブル相場は今後、市場の要因で決定される」とした上で「これにより中銀の金融政策の効果が高まり、物価安定が確保される」との利点を強調した。一方、投機的なルーブル売りを抑制するため、「為替市場介入を完全に撤廃するのではなく、金融安定が脅かされる場合には介入をいつでも実施する」と指摘した。ルーブルの変動相場制移行は来年1月に行われる予定だったが、2カ月も前倒しされた。

 今年初めに1㌦=32ルーブル台だったルーブル相場はその後下落基調をたどり、11月になって一時48・65ルーブルという史上最安値を付けた。約4割の下落だ。

 ロシア中銀は従来、ドルやユーロに対し変動の許容量を定め、許容幅を超えれば市場介入する「管理型の変動制」を採用していた。投機筋は、通貨下落を防ごうとする中銀のルーブル買いにつけこみ、売りを浴びせ続けた。結局、市場の圧力に押し切られた形だ。

 大幅なルーブル安はこの3~4カ月に顕著な現象であった。市場関係者の間では、変動許容幅の撤廃には、確かに投機資金の影響を抑える効果が期待される半面、不安定なルーブルの評価が根本的に変わることはないとの見方が有力のようだ。

 ルーブル通貨安の主因は、ウクライナ危機をめぐる米欧の度重なる経済制裁と、主な外貨収入源で主力輸出商品である原油の値下がりであった。経済制裁がロシアの銀行や企業の国際市場での資金調達や借り換えを困難にし、原油安は政府歳入に打撃を与えたのである。

 ロシアは4200億㌦から4300億㌦という巨額の外貨準備高を保有している(経常黒字国だ)が、それには限界がある。中銀はルーブル支援のため数週間にわたって1日25億㌦程度の市場介入を行ってきたものの、許容幅の維持が難しくなって、定期的な介入は実施しないと発表せざるを得なかった。その直後の変動制移行決定であった。

 また、中銀はルーブルを防衛し資本流出を防ぐとともに、インフレ抑制のため今年になって4回利上げして、主要政策金利を9・5%まで引き上げた。だが、インフレ率は年末まで8%超の水準で推移すると予測されている。通貨安に伴う物価上昇の深刻化は避けられそうにない。国民生活に大きな負担となるのは疑いないところだ。

 制裁解除に向けた措置を

 ロシア経済の安定化には、米欧の制裁解除につながる措置を取るしかない。

 ロシアのプーチン政権はウクライナ南部クリミア半島の併合を撤回するとともに、親露派に影響力を行使して停戦合意を履行させるべきだ。

(11月20付社説)