反体制派暗殺未遂 ロシアは真相を明らかにせよ


 ロシアのプーチン大統領の最大の政敵とも呼ばれる反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が旧ソ連の軍用神経剤「ノビチョク」系の毒物を盛られたとみられる暗殺未遂事件について、ロシアは「自作自演だ」として捜査を進める姿勢を見せていない。ノビチョクは化学兵器であり、当局の関与が疑われて当然である。ロシアは真相を明らかにすべきだ。

プーチン政権の不正追及

 ナワリヌイ氏は2011年、下院選挙での不正疑惑を受けた大規模な反政権デモの呼び掛け人としてその名を知られた。プーチン政権の不正と汚職を追及し、当時のメドベージェフ首相が所有する複数の豪邸などを暴露する動画を動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開。プーチン政権の支持率低下に追い打ちをかけた。

 18年の大統領選への出馬を目指したが、中央選管が立候補登録を拒否。ナワリヌイ氏は何度も投獄されながらもこれに屈せず「反腐敗デモ」を繰り返し、プーチン政権を追及し続けた。

 そのナワリヌイ氏は9月の統一地方選を前に、シベリア各地で野党の選挙運動を支援していた。モスクワに戻る旅客機内で突然意識を失い、緊急着陸したオムスクの病院に搬送された。

 家族は毒を盛られた可能性を訴えたが、病院は「新陳代謝障害」と断定し、特別な治療は行わなかった。家族はドイツのNGOに助けを求めた。ロシア側は難色を示したものの、ドイツのメルケル首相の働き掛けもあり、ナワリヌイ氏は同NGOの小型ジェットでドイツに移送され、毒物に関する救急医療の専門チームがいるベルリンのシャリテー大学病院に入院した。

 同病院の報告を受け、ドイツ政府はノビチョク系の軍用神経剤が使われたと断定。先進7カ国(G7)の外相は議長国の米政府を通じて「どのような状況であれ、化学兵器の使用は受け入れられず、化学兵器の使用を禁じた国際規範にも反する」と指摘。ナワリヌイ氏の暗殺未遂を「最も強い言葉で非難する」との声明を出し、ロシアに説明を要求した。

 しかし、ロシアは「事件の背後に外国の情報機関がいる可能性がある」(ウォロジン下院議長)などと主張し、まともに取り合おうとはしない。フランス紙ルモンドによると、マクロン大統領との電話会談でプーチン氏は、ナワリヌイ氏は毒物を自分で体内に入れた可能性もあると述べた。

 ロシアの「裏切り者」にノビチョクが使われた例はある。ロシアの元スパイで英国に亡命したセルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリアさんが18年、ノビチョクで襲撃される暗殺未遂事件が起きた。プーチン政権を批判していた連邦保安局(FSB)元将校アレクサンドル・リトビネンコ氏が06年、同じく亡命先の英国で、放射性物質ポロニウムで殺害された事件もある。

繰り返される殺害事件

 ロシア国内でもプーチン政権を批判する政治家や活動家、記者、実業家らが何者かに殺害される事件が何度も繰り返されている。国際社会が厳しい目を向けるのは当然だ。ロシアは真相を明らかにすべきだ。