原発処理水 早急に処分方法の決定を


 菅義偉首相は就任後初めて東日本大震災の被災地である福島県を訪問し、東京電力福島第1原発の構内で保管中の処理水の処分方法について「政府の責任で方針を決めたい」と述べた。

 政府の小委員会は2月、処分方法に関して、薄めて海に流す「海洋放出」と蒸発させて大気に放つ「水蒸気放出」の2案を「現実的な選択肢」と位置付けた。これに基づいて早急に決定すべきだ。

 海洋か大気への放出

 首相は福島第1原発などを視察して「福島の復興なくして東北の復興なし、東北の復興なくして日本再生なし。これは私の内閣としての基本方針だ」と強調した。

 来年で震災から10年となる。復興には処理水の処分も欠かせないはずだ。処分が進まなければ、廃炉作業にも悪影響を及ぼしかねない。

 処理水には浄化装置で除去できない放射性物質トリチウムが残っており、東電は原発敷地内のタンクへの貯蔵を継続。現在123万㌧に達している。敷地内のタンク保管は137万㌧が上限とされ、2022年9月末には満杯になるという。処理水の処分は準備に2年程度を要するため、一日も早い方法決定が求められる。

 経済産業省は昨年11月、海洋や大気に放出した場合の放射線の影響が、自然界に存在する放射線の影響に比べて「十分に小さい」とする推計結果をまとめた。日本国内では宇宙線や食物から平均で年間2100マイクロシーベルトの自然放射線を受けているが、処理水を1年間で処分した場合、被曝(ひばく)線量は海洋放出で最大0・62マイクロシーベルト、水蒸気放出でも1・3マイクロシーベルトにすぎない。

 小委員会は、海洋放出は通常の原子力施設で実施例が多く、必要な設備も水蒸気放出より簡易に済むと指摘している。

 ただ、どちらの方法をめぐっても地元では風評被害を懸念する声が強い。補償などの対応を求める地元の意見を踏まえつつ、政府は不安の払拭(ふっしょく)に努める必要がある。

 東電は放出前の段階でトリチウム以外の放射性物質濃度を基準値以下にする「二次処理」を実施する方針を示しており、その試験も始まった。処理速度を重視した初期はトリチウム以外の放射性物質も十分除去できずに残ったためだ。

 二次処理後、海洋放出の場合は、水1㍑当たり1500ベクレル未満を目安に海水と混ぜて希釈、放出。水蒸気放出では、ボイラーで加熱し、蒸発させ空気と混ぜて放出する。

 東電は一度に大量の放出は避け、最長で20~30年かける可能性もあるとしている。処理水をできる限り安全な状態にし、海洋などへの影響を極力回避するのは当然だ。

 復興の進展に協力を

 トリチウムの放射線のエネルギーは弱く、体内に取り込んだ際の人体への影響は放射性セシウムの約700分の1という。こうした正確な情報の発信を強化し、風評被害を防がなければならない。

 私たち一人一人も非科学的な風評に惑わされることなく、福島の復興の進展に協力していきたい。