菅外交始動 日米同盟軸に国際協調模索を


 菅義偉首相の外交が始動した。トランプ米大統領やオーストラリアのモリソン首相、中国の習近平国家主席ら10人近い海外首脳と電話会談を行い、国連総会でビデオ演説を行った。

 安倍外交を継承する立場で手堅く外交デビューを果たしたが、本番はこれからだ。米中対立が激化する中、判断を誤れば、戦後日本が守り抜いてきた主権や安全、自由、民主主義、法の支配を侵されかねない。

中国に対しては及び腰

 米大統領との電話会談では、安倍晋三前首相とトランプ氏との間で築かれた関係を基礎に「日米同盟の一層の強化」を確認した。トランプ氏からは「必要があれば24時間いつでも連絡してほしい」旨の発言もあった。上々のスタートと言える。

 注目すべきは、同じ日にモリソン氏とも会談していることだ。中国と対立を深める豪州は「自由で開かれたインド太平洋」構想の要である。同氏とは両国が「特別な戦略的パートナー」であることを確認した。

 習氏との電話会談では「緊密に連携」することで一致。菅首相は沖縄県・尖閣諸島を念頭に「東シナ海情勢」への懸念を表明し、香港での民主派弾圧についても「地域、国際社会の関心の高い課題について今後しっかり議論していきたい」と語ったが、漠然とした表現で終わった。

 習氏がデカップリングの動きに対して「安定したサプライチェーン(部品供給網)と公平で開放的な貿易・投資環境の維持を希望する」と具体的に述べたのとは対照的で、いかにも及び腰だった。今後はっきりと批判すべきである。

 国連総会での演説は、新型コロナウイルス問題に多くが割かれた。ワクチンを途上国にも安価かつ迅速に供給する「特許権プール」の必要性を強調し、わが国の姿勢をアピールできた。国連安保理改革や法の支配、北朝鮮による日本人拉致問題などに触れ、東京五輪・パラリンピックを「人類が疫病に打ち勝った証し」として開催する決意表明で締め括(くく)ったのはよかった。

 和を以て尊しとする日本らしく、国際協調の必要性を滲(にじ)ませるトーンが強かった。しかし国際協調は、あくまでも自由や人類の福祉のためのものでなければならない。それを力で毀損(きそん)しようという国や勢力がある場合は、それらの価値観を共有する国々が団結し、その動きを阻止しなければならない。

 習氏は菅首相に、両国は「多国間主義を積極的に実践し、国連を中心とする国際秩序を断固として守るべきだ」と述べたが、中国は世界保健機関(WHO)などの国際機関を自国のために利用しているにすぎない。「多国間主義」「国連中心」など日本人が好む言葉を巧みに使って、日米の離間を図っている。

価値観共有の連携土台に

 国際協調の名の下に、日本の外交的スタンスが曖昧なものとなってはならない。しかし価値観外交一辺倒でなく、現実的で戦略的でなければならない。

 日米同盟を軸に、価値観を共有する国々との連携を土台に、国際協調を模索すべきである。この土台なくして、力による現状変更を進める国を抑え、真の協調を生み出すことは困難だ。