露憲法改正 プーチン氏による権力私物化
ロシアのプーチン大統領の5選出馬を可能にする憲法改正法案が上下両院で可決され、プーチン氏が署名した。全国投票で過半数の賛成が得られれば、改憲は成立する。
大統領の任期制リセット
法案は、改憲時に現職大統領と大統領経験者のそれまでの在任期間を「リセット」し、任期に含まないという異例の内容。対象となるのは、プーチン氏とメドベージェフ前首相になる。
現行憲法は大統領任期を「連続2期」までと定めている。連続しなければ、2期終了後に首相などに鞍替えして再出馬が可能だった。
これを防ぐため、改憲案は「通算2期」までとした。2024年に任期満了となるプーチン氏が、退任後も権力を維持する上で、次期大統領に強大な権限を与えないためとみられていた。しかし、改憲成立で任期がリセットされれば次期大統領選に出馬できるようになる。当選すれば36年まで2期12年間、大統領を続けることが可能になる。
プーチン氏はエリツィン前政権時代の大きな混乱から脱して社会を安定させてきた。だが、そこには新興財閥の解体やメディアの統制、野党勢力の封じ込めなど強権的手法が伴った。ソ連崩壊によって実現した民主化は、プーチン政権下で後退したと言えよう。今回の改憲はこれに拍車を掛けるものだ。
上下両院での改憲法案可決を受け、反プーチン政権運動の指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は「プーチン氏の大統領任期が終身になることは明らかだ」とツイッターに書き込んだ。プーチン氏は権力を私物化していると言われても仕方があるまい。
中国では18年3月、習近平政権下で国家主席の任期制限が撤廃された。地域の大国である中露両国が、国家元首の長期独裁で足並みをそろえ、強権統治を強めていることが懸念される。
一方、プーチン氏は対外的にはソ連崩壊で失った勢力圏の回復を目指し、米国中心の国際秩序に挑んでいる。親欧州連合(EU)派デモ隊が親露派政権を打倒したウクライナ政変後の14年3月にはウクライナ南部クリミア半島併合を強行。国民の愛国心をあおり、求心力を拡大する狙いもあった。
しかし、欧米による対露制裁経済で国民生活には閉塞感が漂っている。プーチン氏は改憲実現で政権浮揚を目指すが、新型コロナウイルスの感染がロシアでも拡大し、4月22日の予定だった全国投票は延期された。
原油収入に大きく依存するロシアでは、世界的な感染拡大による原油価格の下落が低迷する国内経済に追い打ちをかけている。対独戦勝75年となる5月9日には、モスクワで記念行事を開催することになっているが、これも実現が危ぶまれている。
首相は4島返還目指せ
改憲案には「ロシア領の割譲禁止」が盛り込まれており、北方領土不法占拠の正当化に利用される恐れがある。
プーチン政権はこれまでも不法占拠について「第2次大戦の結果」と強弁してきた。だが、北方四島は日本固有の領土である。安倍晋三首相は「2島プラスアルファ」ではなく、4島返還を目指すべきだ。