イラン核問題、トランプ米次期大統領に期待
中東和平の行方と新提案
イスラエル国会副議長 イェヒエル・ヒルク・バール氏
イスラエルにとってパレスチナ問題は、喉に刺さったトゲのような存在だ。解決しようにも、抗する内外の勢力は手ごわい。「オリーブの枝」を手に新和平案を提言するイスラエル国会副議長イェヒエル・ヒルク・バール氏にインタビューした。(聞き手=池永達夫、窪田伸雄)
経済発展がテロ脱却促す
ネタニヤフ首相はイランと核合意したオバマ米大統領に反発した経緯がある。1月20日にトランプ米大統領が就任するが、期待は?
率直に言ってトランプ政権では、核をめぐる情勢はいい方向に向かうと期待している。イスラエルでは、与野党ともイランとの核合意については反対の立場だ。トランプ大統領になって、イランとの核合意をキャンセルするかどうかは分からないが、少なくとも一定の留保をするだろう。もしイランが合意を破った時には、厳しい制裁措置を取ることにもなると思う。

イェヒエル・ヒルク・バール 1975年生まれ。ヘブライ大学卒業、同修士課程修了(国際関係論専攻)。エルサレム市議会議員を経て2010年、史上最年少でイスラエル労働党幹事長。2013年、イスラエル国会(クネセト)議員。アラブ・イスラエル紛争解決議員団の創設者・議長としてパレスチナとイスラエルの共存に尽力。
イスラエルは核を保有したイランを絶対に容認できない。イランへの懸念はそれだけでなく、世界中にテロを拡散させている現実がある。レバノンにおけるヒズボラやパレスチナにおけるハマス、その他のさまざまなテロ活動を支援している国だ。そうしたイランにはっきりした態度を取ることができるトランプ大統領に期待したい。
オバマ大統領は「世界の警察官をやめる」と言い、アフガンやイラクから撤退方針を打ち出した。中東に力の空白ができ、中東混乱の一要因となっているのでは?
確かに米国が内向きになりつつあるのは事実だが、世界の警察官という役割を全面的に放棄することはあり得ないと思うし、中東への関与も簡単に捨てることはないだろう。例えば日米安全保障条約の役割を米国が捨てて去ってしまうことはないのと同じだ。
そうは言っても、力の空白のような状態が中東の一部にできていて、ロシアや中国が興味を持ち、トルコも自信を深めて積極的な外交政策を取ってきている。
米国とNATO(北大西洋条約機構)には、世界に対する一定の責任を持つことを期待したい。
パレスチナ問題ではハマスが障害になっていると思うが、どう対処するのか?
パレスチナ人については、二つのカテゴリーがある。一つは、イスラエルの隣人として共存していくパレスチナ人グループ。こうしたグループとの善隣関係を強化するため、我々はあらゆる努力を惜しまない。エジプトやヨルダンの立場がそうだ。
もう一つは、我々に代わってパレスチナで生きようとする人たちだ。このグループは、イスラエルの生存権を認めない。それは我々の敵であり、対話もあり得ない。
現在のハマスはテロ組織であって、イスラエルの生存権や安全保障を頭から受け付けない。これまでにも何千発ものミサイルをイスラエルに撃ち込んできた。また、80万㌧ものセメントを使って、攻撃用トンネルをつくってきた。
イスラエルは正当防衛の権利を行使し、ハマスとは戦わざるを得ない。「イスラム国」やアルカイダ、他の過激主義勢力に対しても同じだ。イスラエルは自国民を保護する責務がある。
一方、パレスチナ解放機構(PLO)がゲリラ組織から政治勢力に転化していったように、ハマスが変われば、我々としても対話のドアを開く用意はある。
イスラエルには和平を望む意思があり、パレスチナとも話し合う用意がある。これを説明するために、私は日本にやって来た。
労働党党首だったラビン氏は「我々イスラエル人は右手にライフル、左手にオリーブの枝を持って戦争と平和の両方を追求してきた」と言ったが、パレスチナとの間で平和への合意に至ることを願っている。
新和平案の特色は何か。
和平の複雑な内容については、既に議論されてきた。90%近い内容は、相互が了解している。私の新提案は、ユダヤ人が新しいパレスチナ国家において少数民族として生活し続けることができるという項目だ。そしてパレスチナ人とイスラエル人が、相互往来できるようにする。それぞれが相互の土地を宗教的な理由、あるいは観光や学術、経済活動のために行き来できるようにしたい。
我々はパレスチナという地域が、経済的に豊かになってほしい。そうすれば、戦争やテロなどに依存するような政策が取れなくなる。
ヨルダン川西岸地域のイスラエルの入植問題についてどう考えるか。
私が考えている構想に基づいて協定が結ばれることになれば、大半の土地はイスラエル側とパレスチナ側で交換され、問題は解決できる。現在、パレスチナが将来の領土として主張するであろう地域に住んでいるイスラエル人にも一定の条件の下で、安全を担保し定着できる手だてが考えられているので、問題は解決するだろう。
90%が合意しているにもかかわらず、最後の10%を超えられないのはなぜ?
最終的な合意に至らないのは、リーダーシップが欠落しているからだ。
イスラエル側においても、パレスチナ側においても、最終的な和平を実現しようという強い意志を持ったリーダーが現在、存在しない。
エジプトとイスラエルが平和条約を結んだ時には、そういうリーダーが双方に存在したが、現在は相互不信状態にある。
だから双方にリーダーが立てば、対話して恒常的な和平樹立の合意案に達することは可能だ。
一番センシティブな問題は?
エルサレムの地位と難民の処遇だ。しかし、この問題も双方が胸襟を開いて、本気で話し合えば道は開けると思う。
――5月に安倍首相はイスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相とサイバーテロに対する協定を結んだ。
大いに評価したい。サイバー問題については、今後も日本とイスラエルが協力できる大きな分野だと思う。イスラエルの科学者や数学者が、世界でも高いレベルの指導的役割に立っているのは良く知られていることだが、日米など、こうした分野で高い技術を持っている国々と協力できれば、サイバーテロに打ち勝つ強力な防波堤となるだろう。





